2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

平行移動を一次変換と思う

xy-平面において、一次変換は原点を動かしません。従って、平行移動を一次変換と思うことは、一見無理に見えます。しかし、です。 を xy-平面とみなすと の形をした行列は P を P の中に写します。なぜならば だからです。このように解釈することで、二次曲…

三角関数を積分を用いて定義する(その 4・最終回)

今や sin , cos , tan は解析的に定義され、それらの満たすべき性質も導くことができます。また、a に関しては、円周の長さと直径の比が 2a になることも確かめられます。 今回は、そういう話は横に置いて、a とはいかなる値なのかをちょっと調べてみます。…

k 次微分形式

滑らかな多様体 M と M 上の点 p が与えられたとき、接空間 が構成できます。これは p の適当な近傍 U の上で滑らかな関数の全体 上の自由加群です。従って双対空間 が定義できます。これが余接空間と言われるものです。そして、p の近傍 U で定義される微分…

三角関数を積分を用いて定義する(その 3)

さて、前回定義した について となることがわかりました。これをもう一度微分すると となります。このことから、 は 級の関数となることがわかります。そしていよいよ と定義します。これで、さしあたり必要な三種類の三角関数が定義できました。 も 級の関…

三角関数を積分を用いて定義する(その 2)

さて、前述の を用いて、新しい関数 を考えてみましょう。 のとき ですから です。従って とおけば、f(x) は連続にはなります。しかし、微分可能性については のところで崩れてしまいます。そこで天下りですが に対して と定義してみます。すると を用いれば…

三角関数を積分を用いて定義する(その 1)

今、y を任意の実数として、y の関数 を で定義します。このとき は有限の値に収束します。なぜならば だから。そこでこの値を仮に a としておけば もわかります。また なので、この関数は y に関して単調増加です。従ってこれは から への全単射であり、そ…

数学界で活躍した女性

古代から現在に至るまで、様々な数学者の業績が積み重なって、現在の数学の理論は出来上がっているわけですが、その中に女性はどのくらいいたのかな ? と、ふと思ってしまいました。浅学な私が思いつくのは Noether 女史くらいです。もし、「こんな女性がい…

Young 図形と対称群の表現(その 5・最終回)

さて、有限群 G の表現 が与えられたとき、G×G-準同型 が与えられるわけですが、言うまでもなく ですから、 です。従って、V が既約であれば前回の結論から も既約なので 、すなわち は全射です。従ってマシュケの定理により、K[G] は に同型な部分空間 W を…

Young 図形と対称群の表現(その 4)

さて、話の続きです。 群環 K[G] は環ですから、当然加群として (K[G],K[G])-両側加群とみなせます。つまり、G の元が左からも右からも作用します。この右からの作用を左からの作用と思うために に対して と定めると、K[G] は G×G-加群になります。 G の表現…

一階線型微分方程式を定数変化法を使わずに解く

d:id:rena_descarte:20060219 から。 次の微分方程式の一般解を求めよ。 (但し、P(x) , Q(x) は x の関数である) 条件:定数変化法を用いないこと これは として とおけば なので、 は x のみの関数です。そこで両辺に を掛けて とすれば完全微分形になりま…

テンソル積と準同型加群

今回はちょっと本題からそれます。*1 右 R-加群 M と左 R 加群 N を考えます。このとき、 を単なる集合と思って、 の元を基底とする R-自由空間を考えます。これを F で表すことにします。そして F の中で (ただし ) (ただし ) (ただし ) の形の元全体で生成…

Young 図形と対称群の表現(その 3)

以下、断らない限り K は標数 0 の代数閉体とします。*1 既約性判定 Schur の補題によって、既約な G-加群 V に対して であることがわかりました。ところが、実はこの逆も成り立ちます。以下、その証明をしましょう。 *1:標数を 0 にするのは、G の位数と関…

Young 図形と対称群の表現(その 2)

Schur の補題 さて、全くもって一般の話になるのですが Schur's lemma(シューアの補題) M , N が既約な R-加群で が成り立ちます。 は明らかですが、 の証明も難しくはありません。 を取ったとき、f(M) は {0} でない N の部分 R-加群なので、N の既約性から…

Young 図形と対称群の表現(その 1)

Young 図形と標準盤 Young 図形とは、以下の例のように、左から右へ、上から下へと、左端と上端を詰めるようにマスを並べたもののことです。そのマス目の個数を、Young 図形の次数と言います。 (これは 12 次の Young 図形の一例) そして、このマス目の中に…

様々な収束の概念(その 3)

上極限と下極限 一般に、実数列 が与えられたとき、これが必ず収束するとは限りません。ところが とおくと、それぞれ となりますので、( となる場合も込めて) と は存在することがわかります。このとき を の上極限、 を の下極限 と言い、それぞれ で表しま…

様々な収束の概念(その 2)

を測度空間とします。S 上の実(または複素)数値関数の列 と、ある f に対して、それぞれ以下のような収束の概念が定義できます。 ほとんどいたるところ収束 の測度が 0、すなわち のとき、 は f にほとんどいたるところ収束すると言います。ルベーグ積分論で…

様々な収束の概念(その 1)

Hilbert 空間における弱収束 今、 を考えます。このとき を内積として、 は Hilbert 空間になります。内積によってノルムが定義され、従って は距離空間ですから、その距離による普通の意味での収束の概念が与えられます。 さて、ちょうど i 番目だけが 1 で…

謝辞

今回の「Jordan 標準形の計算方法」の執筆にあたり 「環と加群 (岩波基礎数学選書)」(山﨑圭次郎著、岩波基礎数学選書) ハンドルネーム・我疑う故に存在する我さまのご指導 を大いに参考にさせていただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。

実 Jordan 標準形の計算方法

これまでの議論の中で、K が代数閉体であることが本質だったのは の部分だけです。これをもし [t]-加群などで考えたらどうなるでしょう。このとき [t]-単純加群は 上の次元が 1 のものと 2 のものの二種類が存在します。従って、[t]-加群 M に対して であっ…

Jordan 標準形の計算方法(その 6・最終回)

では実際に K を代数閉体として、K[t]-加群 M に対して を示しましょう。まず として、h を と因数分解します(ただし )。このとき と直和分解できます。従って です。ここで です。従って でなければいけません。従って が成り立ち が示されたことになります…

Jordan 標準形の計算方法(その 5)

さて話を R = K[t] に戻して、R 加群 の有限表示を考えます。 を で定義します。このとき は が n 次の多項式、すなわち 0 でないので単射、また は全射です。 も容易にわかります。後は を示せば は完全列となり、 の有限表示を得ます。そこで は準同型定理…

Jordan 標準形の計算方法(その 4)

なおも一般論です。もちろん R は単項イデアル整域です。R-加群の完全列 が与えられているとき、 とみなせるので、 の行列式 が定義できますが、これに対して となることを示します。

Jordan 標準形の計算方法(その 3)

引き続き R は単項イデアル整域とします。*1 前回定義した に関するいくつかの性質を調べておきましょう。まず、有限生成 R-捩れ加群の完全列 があったとき、 を示します。 *1:どうも、R は Dedekind 環であれば良いようですが、そこまで一般化する意味も無…

Jordan 標準形の計算方法(その 2)

さて、 は K[t] 上有限生成な捩れ加群です。*1そこで話を一般化して、単項イデアル整域 R 上の有限生成捩れ加群 M についての話をします。*2 *1:一見アタリマエなのですが、練習問題としておきましょう。 *2:本当はあまり一般化したくないのですが、これをや…

Jordan 標準形の計算方法(その 1)

K を体として、n 次正方行列 が与えられたとき、それはアタリマエですが線型写像 を引き起こします。そしてそのことは、 に不定元 t を で作用させることにより、 を K[t]-加群と看做せるのだ、ということは以前お話した通りです。そこで A の Jordan 標準形…

Stokes の定理と定積分・Cauchy の積分定理

閉区間 [a,b] で連続な関数 f(x) に対して、その原始関数 F(x) がわかっているとしましょう。すなわち ということ*1ですが、このとき となることは、誰でもご存知でしょう。これを、ちょっと見方を変えるとこんな風になります。 この最後の等号の部分が Stok…

「数学の輪」退会者

azzu_ks さんがはてなダイアリーを閉鎖されてしまいました。そのため、自動的に「数学の輪」も退会ということに…。 邦訳のお仕事の傍ら、群論の勉強をなさっていたようだったので、これからも参加し続けていただきたかったのですが、いろいろな事情がおあり…

数学は美しくなんかない

この際だから言い切りますが、数学は決して「美しい学問」ではありません。中心極限定理とか、Feit-Thompson の定理とか、Thurston の怪物定理とか、果ては Fermat の最終定理とか、結果だけ見れば美しいですが、その中身は、証明を追うだけでも軽く 1 〜 2 …