様々な収束の概念(その 1)

Hilbert 空間における弱収束

今、
l^2(\mathbb{C})=\left\{\mathbf{a}=\{a_n\}\middle|\sum\limits_{n=1}^\infty|a_n|^2<\infty\right\}
を考えます。このとき
(\mathbf{a},\mathbf{b})=\sum\limits_{n=1}^\infty a_n\overline{b_n}
内積として、l^2(\mathbb{C}) は Hilbert 空間になります。内積によってノルムが定義され、従って l^2(\mathbb{C})距離空間ですから、その距離による普通の意味での収束の概念が与えられます。
さて、ちょうど i 番目だけが 1 で、他は 0 であるような数列を \mathbf{e}_i とおくことにします。このとき l^2(\mathbb{C}) の点列
\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\ldots,\mathbf{e}_n,\ldots
は、距離の意味では収束しません。なぜなら i\neq j のとき ||\mathbf{e}_i-\mathbf{e}_j||=\sqrt{2} なので、収束のために必要な Cauchy の条件を満たさないからです。
しかし、1 の「居場所」は n が無限に大きくなるにつれてどんどん「遠く」なっていきますから、何らかの意味で 0 に「収束」して欲しい、と期待するわけです。
そこに持ってきて、任意の \mathbf{a}\in l^2(\mathbb{C}) に対して
(\mathbf{a},\mathbf{e}_n)=a_n\to 0(n\to\infty)
が成り立つわけですから、この意味では 0 に収束すると言えなくもありません。実はこれは通常の収束の概念とは違う新しい収束の概念で、このように Hilbert 空間 H の点列
\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2,\ldots,\mathbf{x}_n,\ldots
が、任意の \mathbf{a}\in H に対して
(\mathbf{a},\mathbf{x}_n)\to(\mathbf{a},\mathbf{b})(n\to\infty)
を満たすとき、点列 \mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2,\ldots,\mathbf{x}_n,\ldots\mathbf{b}弱収束すると言います。もちろん収束すれば弱収束しますが、逆が成り立たないことは先程の例から明らかですね。
この弱収束という概念は、ditribution の収束の定義に使われたりします。