Young 図形と対称群の表現(その 5・最終回)

さて、有限群 G の表現 (\pi,V) が与えられたとき、G×G-準同型
\pi:K[G]\to{\rm End}_K V
が与えられるわけですが、言うまでもなく \pi(G)\subset GL(V) ですから、{\rm Im}\pi\neq\{0\} です。従って、V が既約であれば前回の結論から {\rm End}_K V も既約なので {\rm Im}\pi={\rm End}_K V、すなわち \pi全射です。従ってマシュケの定理により、K[G] は {\rm End}_K V\stackrel{\sim}{=}K[G]/{\rm Ker}\pi に同型な部分空間 W を含みます。これを {\rm End}_K V と同一視すると
K[G]={\rm Ker}\pi\oplus{\rm End}_K V
と直和分解できます。ここで、{\rm Ker}\pi はもちろん、{\rm End}_K V も K[G] の両側からの作用で閉じている、いわゆる両側イデアルですから、これは環の直和分解ともみなせます。
このようなことを、G の(同値でない)既約表現全体に対して行いたいわけですが、実はそれは可能で、
V_1,V_2,\ldots,V_k
を、互いに同値でない既約表現(の代表元みたいなもの)の全体とするとき、環として
K[G]={\rm End}_K V_1\oplus{\rm End}_K V_2\oplus\cdots\oplus{\rm End}_K V_k
と直和分解するのです ! この証明はやや長いので、「加群十話―代数学入門 (すうがくぶっくす)」にお任せすることにします。さて、この両辺の K 上ベクトル空間としての次元を比較すると
|G|=\sum\limits_{i=1}^k(\dim_K V_i)^2
なる等式が得られます。これは、最初に紹介した
n!=\sum\limits_{\lambda\in Y_n}{d_\lambda}^2
とますます似通っています。

実は同じもの

|G|=\sum\limits_{i=1}^k(\dim_K V_i)^2

n!=\sum\limits_{\lambda\in Y_n}{d_\lambda}^2
は似ている、と言う話をしましたが、実はこの両式は、全く同じ意味を持っているのです ! もちろんここでは証明できませんが、n 次の Young 図形のそれぞれに対応して、対称群 S_n の既約表現が一つ決まり、その表現の次元は基となる Young 図形において可能な標準盤の個数に一致する、ということが知られているのです。このことを言いたいがために、今まで一般論をグダグダとやってきたわけです。
例えば n = 3 で考えるとすぐにわかることとして、S_3 の既約表現は、互いに同値でない 1 次の既約表現が二つと、2 次の既約表現が一つある、ということがわかります。実際、3 次の Young 図形は三通りあり、
\unitlength{1}\picture(120){(45,15;30,0;2){\line(0,90)}(45,15;0,30;4){\line(30,0)}}
に対応する標準盤は
\unitlength{1}\picture(120){(45,15;30,0;2){\line(0,90)}(45,15;0,30;4){\line(30,0)}(58,85){\fs{+1}{1}}(58,55){\fs{+1}{2}}(58,25){\fs{+1}{3}}}
の 1 個、
\unitlength{1}\picture(90){(15,15;30,0;2){\line(0,60)}(75,45){\line(0,30)}(15,45;0,30;2){\line(60,0)}(15,15){\line(30,0)}
に対応する標準盤は
\unitlength{1}\picture(90){(15,15;30,0;2){\line(0,60)}(75,45){\line(0,30)}(15,45;0,30;2){\line(60,0)}(15,15){\line(30,0)}(28,55){\fs{+1}{1}}(28,25){\fs{+1}{2}}(58,55){\fs{+1}{3}}},\unitlength{1}\picture(90){(15,15;30,0;2){\line(0,60)}(75,45){\line(0,30)}(15,45;0,30;2){\line(60,0)}(15,15){\line(30,0)}(28,55){\fs{+1}{1}}(58,55){\fs{+1}{2}}(28,25){\fs{+1}{3}}}
の 2 個、
\unitlength{1}\picture(120){(15,45;0,30;2){\line(90,0)}(15,45;30,0;4){\line(0,30)}}
に対応する標準盤は
\unitlength{1}\picture(120){(15,45;0,30;2){\line(90,0)}(15,45;30,0;4){\line(0,30)}(28,55){\fs{+1}{1}}(58,55){\fs{+1}{2}}(88,55){\fs{+1}{3}}}
の 1 個ですから、3!=1^2+2^2+1^2 で辻褄が合います。
このあたりのことをもう少し知りたい人には

の 2 冊をお勧めします。