群の表現と行列の Jordan 標準形(その 4)

部分表現と剰余表現

群の表現 \pi:G\to GL(V) が与えられたとき、V は G 加群(すなわち K[G]-加群)ですが、W が V の部分 G 加群であるとは
\pi(x)(W)\subset W(\forall x\in G)
が成り立つことを言います。このとき、\pi_W(x)=\pi(x)|_W(\forall x\in G) として新たな G の表現 \pi_W:G\to GL(W) を得ることが出来ます。これを表現 (\pi,V)部分表現 と言います。
表現 (\pi,V) の部分表現 (\pi_W,W) が与えられると、各 \pi(x) が V/W 上に引き起こす線型同型 \pi_{V/W}(x)\in GL(V/W) が自然に定まります。このことにより V/W はやはり G 加群となり、新たな表現
\pi_{V/W}:G\ni x\to\pi_{V/W}(x)\in GL(V/W)
が得られます。この表現のことを剰余表現と言います。V が有限次元ならば、V の基底 (e_1,\ldots,e_n)(n=\dim_K V) を、(e_1,\ldots,e_m)(m=\dim_K W) が W の、(e_{m+1},\ldots,e_n) (の同値類)が V/W の基底となるように取れば、\pi(x) の行列表示は
\pi(x)=\left(\begin{array}{cc}\pi_W(x)&*\\ O&\pi_{V/W}(x)\end{array}\right)
という形に書けることになります。

既約表現とマシュケの定理

G 加群 V が G 加群として自分自身と {0} 以外に部分 G 加群が存在しないとき、V は既約 G 加群であると言います。また、そのときの表現を既約表現と言います。そして、G が有限群の場合は、以下に述べるように、任意の表現は既約表現の直和として書けてしまいます。この性質は完全可約性と言われています。

定理(Maschke)
G を有限群とし、K を標数が 0 または G の位数と互いに素であるような体とする。このとき G の K-加群による表現は全て完全可約である。

一般の場合の証明は本格的な書籍に任せて、ここでは表現空間 V が有限次元の場合を考えます。証明の方針としては、V が既約でなければ \{0\}\underset{\neq}{\subset}W\underset{\neq}{\subset}V となる部分 G 加群 W が存在します。そこで、G 加群として V=W\oplus W' となるような部分 G 加群 W ' を作れば良いのですが、その方法として、G 加群としての全準同型 f:V\to Wf_W=\text{id}_W となるものを作り、W'=\ker f とおけば、W ' は V の部分 G 加群で、任意の v\in V に対して f(v)\in W だから f(f(v))=f(v)、従って
f(v-f(v))=f(v)-f(f(v))=f(v)-f(v)=0
となり、v-f(v)\in\ker f=W' がわかります。ゆえに任意の v\in V
v=f(v)+(v-f(v))
と分解できるので V=W+W'、さらに v\in W\cap W' ならば v=f(v)=0 なので、W+W'=W\oplus W'、従って V=W\oplus W' です。以下、W や W ' が既約でなければ、それらに再び定理を適用すれば、V が有限次元であることから有限回の操作によって既約分解を得ることが出来ます。
そうすると問題は f_W=\text{id}_W を満たすような G 加群の全準同型
f:V\to W
を如何にして作るか、ということに集約されます。
まず、単なる K-加群としての全準同型として、射影
\varphi:V\to W,\varphi|_W=\text{id}_W
を取ることは出来ます。この \varphi を基にして
f(v)=\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(x)^{-1}\varphi(\pi(x)v)
とおきます。*1後は、この f が条件を満たしていることを確認すれば良いことになります。実際、y\in Gv\in V に対して
\begin{align}f(\pi(y)v)&=\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(x)^{-1}\varphi(\pi(x)\pi(y)v)\\&=\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(x)^{-1}\varphi(\pi(xy)v)\\&=\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(y)\pi_W(y)^{-1}\pi_W(x)^{-1}\varphi(\pi(xy)v)\\&=\pi_W(y)\left(\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(xy)^{-1}\varphi(\pi(xy)v)\right)\\&=\pi_W(y)\left(\frac{1}{|G|}\sum\limits_{x\in G}\pi_W(x)^{-1}\varphi(\pi(x)v)\right)\\&=\pi_W(y)f(v)\end{align}
なので、f は確かに G 加群の準同型です。さらに w\in W とすると \pi(x)w\in W だから
\varphi(\pi(x)w)=\pi(x)w=\pi_W(x)w
となり、これから f(w)=w(\forall w\in W) がわかります。かくして、目的にかなう全準同型 f:V\to W を作ることが出来たので、定理の証明は終わります。
さて、この証明で「肝」となるのは、G が有限群であることと、K が標数 0 (または G の位数と互いに素)の体であるということです。Jordan 標準形との関連で、あとあとこの条件がものを言いますので、ちょっと頭の片隅に入れておいてください。(続く)

*1:この操作は、専門家の間では「\varphi を G 上で積分する」と言われるそうです。