級数と Lebesgue 積分(その 2)

前回までで、積分を定義するのに必要な概念は一通り揃いました。いよいよ、一般化された積分を定義します。

積分の定義

(S,\mathcal{M},\mu) を測度空間、f を S 上の非負可測関数とします。\mathcal{M} の互いに共通部分を持たない有限部分族
\mathcal{O}=\{M_1,M_2,\ldots,M_q\}\subset\mathcal{M},M_j\cap M_k=\emptyset(j\neq k)
に対して、
\underline{f}(M_i)=\inf\{f(s)|s\in M_i\}
と定義し、さらに和
\underline{\sum}_{\mathcal{O}}(f)=\sum\limits_{i=1}^q\underline{f}(M_i)\mu(M_i)
を定義します。そして \mathcal{O}\mathcal{M} の互いに共通部分を持たない有限部分族の全体を動くときの上記の和の上限を f の積分と言い、\int fd\mu で表します。すなわち
\int fd\mu=\sup\left{\underline{\sum}_{\mathcal{O}}(f)\middle|\mathcal{O}\right\}
です。この値が有限のとき、f は積分可能または可積分であると言います。
一般の実数値の可測関数 f に対しては、
f^+=\max\{f,0\},f^-=\max\{-f,0\}
と定義すると f^+,f^- はいずれも非負の可測関数で f=f^+ -f^- が成り立つので、
\int f^+d\mu-\int f^-d\mu
\infty-\infty の形にならない場合に、これを \int fd\mu と定めます。さらに f が複素数値の場合は
\int fd\mu=\int\Re fd\mu+i\int\Im fd\mu
と定めます。これらの定義からすぐにわかる性質として、f が可積分であることと、|f| が可積分であることが同値であることがわかります。すなわち、ルベーグの意味で「可積分」と言うときは、常に絶対可積分(= 絶対値が可積分)であることが要求されているのです。

自然数全体を測度空間と思う

自然数の全体
\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}
を考えます。\mathbb{N}\sigma 集合体として、\mathbb{N} の部分集合全体を取ります。また、A\subset\mathbb{N} に対して、\mu(A)=|A| (A に含まれる元の個数)と定めます。このとき (\mathbb{N},\mathcal{P}(\mathbb{N}),\mu) は測度空間になります。
今、任意の複素数\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}} を、\mathbb{N} から \mathbb{C} への写像
a:\mathbb{N}\ni n\to a(n)=a_n\in\mathbb{C}
と思えば、これは可測関数になります。従って \mathbb{N} 上での積分が定義でき、
\int_{\mathbb{N}}ad\mu=\sum\limits_{n=1}^\infty a_n
となることがわかります。級数の和は、ある意味で積分だったのです。こう書くと、a が可積分というのは、ちょうど級数 \sum\limits_{n=1}^\infty a_n が絶対収束することに対応していることがわかりますね。(続く)