Radon - Nikodym 微分(その 4)

以下、通常の意味での測度を正測度と呼ぶことにします。

測度の絶対連続

f を測度空間 (S,\mathcal{M},\mu) 上の積分可能な関数とするとき
\varphi(M)=\int_M f(s)d\mu(s)
は実測度です。この実測度は次の性質を持ちます。

  1. \mu(M)=0 ならば \varphi(M)=0
  2. 任意の \varepsilon>0 に対して、適当に \delta>0 を取れば \mu(M)<\delta\Rightarrow|\varphi(M)|<\varepsilon が成り立つ。

二番目については
f_n(s)=\left\{\begin{array}{cl}f(s)&(|f(s)|\leq n)\\0&(|f(s)|>n)\end{array}\right.
とおけば |f_n(s)|\uparrow|f(s)| だから単調収束定理により
\int|f_n(s)|d\mu(s)\to\int|f(s)|d\mu(s)
が成り立ちます。従って任意の \varepsilon>0 に対して
\int|f(s)|d\mu(s)-\int|f_n(s)|d\mu(s)<\frac{\varepsilon}{2}
となる n を固定して \delta=\frac{\varepsilon}{2n} とおけば、\mu(M)<\delta のとき
\begin{array}{cl}|\varphi(M)|&=\left|\int_M f(s)d\mu(s)\right|\\&\leq\int_M|f(s)|d\mu(s)\\&=\int_M|f_n(s)|d\mu(s)+\int_M(|f(s)|-|f_n(s)|)d\mu(s)\\&\leq n\mu(M)+\int(|f(s)|-|f_n(s)|)d\mu(s)<\varepsilon\end{array}
ところで、上記の実測度に限らす、(S,\mathcal{M},\mu) 上の実測度 \varphi において、性質 1 が成り立つことと性質 2 が成り立つことは同値になります。2\Rightarrow 1 は明らかなので 1\Rightarrow 2 を示せば良いのですが、1 の性質は、\varphi の正部分・負部分にそれぞれ受け継がれるので、それらに対して性質 2 が成り立つことが示されれば、元の実測度に対しても性質 2 が成り立つことは容易にわかります。従って \varphi は正の実測度、すなわち有限正測度であるとして一般性を失いません。そこで、有限正測度 \varphi で、性質 1 を満たし性質 2 を満たさないものがあったと仮定します。このとき、\varepsilon>0 があって どんな \delta>0 に対しても
\mu(M)<\delta,\varphi(M)\geq\varepsilon
となる M が存在します。そこで
\mu(M_n)<2^{-n},\varphi(M_n)\geq\varepsilon
となるように M_1,M_2,\dots を取ると \bar{M_n}=\bigcup_{k=n}^\infty M_k に対して
\mu(\bar{M_n})<2^{-n+1},\varphi(\bar{M_n})\geq\varepsilon
すると \bar{M_n}\downarrow M=\overline{\lim}\limits_{n\to\infty}M_n
\mu(M)=0,\varphi(M)\geq\varepsilon
となるので性質 1 が成り立たないことになり矛盾します。
さて、可測空間 (S,\mathcal{M}) 上の二つの正測度 \mu_1,\mu_2 に対して次の定義を設けます。
(\forall M\in\mathcal{M})(\mu_1(M)=0\Rightarrow\mu_2(M)=0)
が成り立つとき、\mu_2\mu_1 に対して絶対連続であると言います。これを記号で \mu_2\prec\mu_1 と表します。また、
\mu_1(N)=0,\mu_2(S\setminus N)=0
となる N\in\mathcal{M} が存在するとき \mu_1,\mu_2互いに特異であると言い、これは記号 \mu_1\perp\mu_2 で表します。なお、実測度に対しては、絶対変分が同様の条件を満たすときに、やはり同じ用語を用います。
最初に述べたことは、測度空間 (S,\mathcal{M},\mu) 上の積分可能な関数 f によって
\varphi(M)=\int_M f(s)d\mu(s)
と定義される実測度 \varphi\mu に対して絶対連続である、ということです。そして実は、適当な条件の下でその逆が成立します。それが Radon - Nikodym の定理なのですが、それはまだ後の話です。