カオス現象(その 3・最終回)

いきなりですが次の画像をご覧ください。

これは先程と同じ y_{n+1}=ay_n(1-y_n),y_0=0.1 を、a を 3.8 から 3.9 まで 10^{-4} 刻みで動かして同じように挙動を調べたものです。くっきりと 3 周期点が見えますね。

実はこの周期 3 こそが全ての(とまでは言いませんが)正体です。一般に、離散力学系 x_{n+1}=f(x_n) において、Sharkovskii の定理というものがあります。f:\mathbf{R}\to\mathbf{R} が連続のときの周期点の存在に関する定理なのですが、それに先だって、周期点に関する Sharkovskii の順序と呼ばれるものがあります。これは n=2^r p,m=2^s q (p,q は奇数) について n\succ m であるとは

  1. r\lt s かつ p\gt 1
  2. r=s かつ p\lt q
  3. r\gt s かつ p=q=1

によって決定される \mathbf{N} 上の順序で、この順に数を並べると
3,5,7,9,\dots,2n+1,\dots,\\2\cdot 3,2\cdot 5,2\cdot 7,2\cdot 9,\dots,2(2n+1),\dots,\\2^2\cdot 3,2^2\cdot 5,2^2\cdot 7,2^2\cdot 9,\dots,2^2(2n+1),\dots,\\\dots,2^n,\dots,2^2,2,1
となります。定理の主張は、この順序的に前であるところの周期点が存在すれば、後にあたる周期点が存在するというものです。例えば 6 周期点があれば 10 周期点、14 周期点…等が存在することになります。特にこの並びを見てわかる通り、3 周期点が存在すれば、あらゆる周期の周期点が存在することになります。*1

Li と Yorke はこれに加えてもっと強い主張をします。世にいう "Period Three Implies Chaos." (「周期 3 はカオスをもたらす。」)です。1975 年に発表されたこの論文は「決定可能でありながら、事実上の予測が不可能である」という現象が数学に存在し得ることを世に知らしめたものと言えます。*2

現在では「カオス」という現象にはきちんと数学的な定義が与えられ、理論も研究され、株価の動向予測などの経済学の分野にも応用されるなど、現代数学を語る上で外せないトピックであると言えます。今回ご紹介したのはいわゆる 1 次元のカオスですが、Lorenz attractor などに代表される 3 次元カオスもあります。突き詰めて行けば奥の深い分野ですが、今回はその入口を見ていただいたところでお開きとします。興味を持たれた方は、ぜひ参考書を手にとって勉強してみてください。

*1:f の連続性は重要な仮定です。これがないと、例えば f(x)=(1-x)^{-1} は全ての点が 3 周期点ですので反例になります。

*2:この論文が発表されるまでにはいろいろと経緯があるのですが、それについては Li 自身の回想があります。