円周率を解析的に定義する(前編)

円周率の解析的な定義はいろいろあって、以前も一つ紹介しましたが、ここでは別な方法を紹介します。

1. 次の二つの級数の収束半径は無限大である。
s(x)=\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}
c(x)=\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!}
証明はそれほど難しくないので割愛します。この事実を利用して、任意の x\in\mathbf{R} に対して \sin x:=s(x), \cos x:=c(x) と定義します。

2. 0\lt x\lt 2 のとき \sin x\lt 0
\sin x=\sum_{n=0}^\infty \frac{x^{4n+1}}{(4n+1)!}\left\{1-\frac{x^2}{(4n+2)(4n+3)}\right\}\gt 0.
実際 0\lt x\lt 2 のとき
\frac{x^2}{(4n+2)(4n+3)}\lt\frac{4}{2\cdot 3}=\frac23\lt 1
である。

2. により 0\lt x\lt 2 のとき (\cos x)'=-\sin x\lt 0 なので \cos x0\le x\le 2 で狭義単調減少です。また、定義により \cos 0=1\gt 0 なので、あとは \cos 2\lt 0 を示せば、中間値の定理により方程式 \cos x=00\lt x\lt 2 にただ一つの解を持つことが分かります。

3. \cos 2\lt 0
\cos x=1-\sum_{n=0}^\infty \frac{x^{4n+2}}{(4n+2)!}\left\{1-\frac{x^2}{(4n+3)(4n+4)}\right\}
であり 0<x<3 では
\frac{x^2}{(4n+3)(4n+4)}\lt \frac{9}{3\cdot 4}=\frac34\lt 1
なので、上式の級数部分の各項は 0 より大きい。したがって 0\lt x\lt 3
\cos x\lt 1-\frac{x^2}{2}\left(1-\frac{x^2}{12}\right)
が成り立つ。よって
\cos 2\lt 1-\frac42\left(1-\frac{4}{12}\right)=1-\frac43\lt 0
である。

以上により \cos x=00\lt x\lt 2 にただ一つの解を持つことが分かったので、その解を \alpha とおき、\pi:=2\alpha と定義します。この \pi が円の直径と円周の長さの比であることは後編にて。