集合論の公理系(その 16・最終回)

選択公理

正則性公理の位置づけにはいろいろと議論もありましたが、ひとまずその辺は置いといて、いよいよ最後の公理を紹介します。

選択公理
{\forall z[\forall x(x\in z\to x\neq\emptyset)\wedge\forall x\forall y(x,y\in z\wedge x\neq y\\\to x\cap y=\emptyset)\to\exists u\forall z\exists t(x\in z\to u\cap x=\{t\})]}

これは、どれも空でなく、また互いに共通部分も持たない集合の族 z が与えられたならば、その要素たる各集合から一つずつ元を寄せ集めて、新しい集合を作ることが出来る、という意味です。公理に現れる u は、z のどの集合にも含まれない元を含んでいる可能性がありますが、u'=u\cap\cup z とおけば、u ' は本当に各集合から一つずつ元を寄せ集めて作られた、新しい集合になっています。これを選択集合と言います。
選択集合の存在は、一見すると当たり前のようですが、この公理の必要性を、Russel は次のような例を出して説明しています。

ここに無限足の靴の集合がある。これらの対から片方だけとり出して集合をつくることができる。それには例えば各対から右足用の靴を選び出してきてまとめればよい。しかし無限足の靴下の集合が与えられたときは、これらの対から片方だけとり出して集合をつくることは困難であろう。なぜならどのようにして片方を選ぶかわれわれにはその手段がないのである。そこで神様にお願いして各対から片方をとり出す一種の関数を作ってもらう。ここに天下り式に選択集合を受け取らざるを得ない一例をみるのである。

さて、集合論において、選択公理と同値な命題はいくつも知られていますが、ここでは深入りしないことにします。

集合論の公理系まとめ

これまでに紹介してきた公理系をまとめてみましょう。

(I)外延公理
x=y\leftrightarrow\forall z(z\in x\leftrightarrow z\in y)
(II)対公理
\forall x\forall y\exists z\forall t(t\in z\leftrightarrow t=x\vee t=y)
(III)和集合公理
\forall x\exists y\forall z(z\in y\leftrightarrow\exists u(u\in x\wedge z\in u))
(IV)べき集合公理
\forall x\exists y\forall z(z\in y\leftrightarrow z\subseteq x)
(V)空集合存在公理
\exists x\forall y(y\not\in x)
(VI)無限公理
\exists a(\emptyset\in a\wedge\forall x(x\in a\to x\cup\{x\}\in a))
(VII)置換公理図式
\varphi(x,y)\mathcal{L} の論理式ならば、次の形の論理式は公理である。

\forall x\forall y\forall z[\varphi(x,y)\wedge\varphi(x,z)\to y=z]\\\to\forall u\exists v\forall y[y\in v\leftrightarrow\exist x\in u\varphi(x,y)]

(VIII)正則性公理
\forall a(a\neq\emptyset\to\exists x\in a(x\cap a=\emptyset))
(IX)選択公理
\forall z[\forall x(x\in z\to x\neq\emptyset)\wedge\forall x\forall y(x,y\in z\wedge x\neq y\\\to x\cap y=\emptyset)\to\exists u\forall z\exists t(x\in z\to u\cap x=\{t\})]

(I) 〜 (VIII) が、本来 Zermelo-Fraenkel 公理と言われるもので、通常 ZF と省略されます。これに (IX) を加えたものを ZF + AC または ZFC と略します("AC" は "Axiom of Choice" の略)。
実際にそれを意識することはほとんどないにせよ、大抵の数学者は、暗黙のうちに ZFC を仮定して議論を行っている*1のです。

*1:もちろん、ZFC を仮定しないで議論を行っている数学者も少なからずいることは、補足しておきます