直角三角形の面積と楕円曲線の関係(その 2)

前回、辺の長さが有理数で、面積が d である直角三角形の存在と、楕円曲線
y^2=x^3-d^2x
(0,0),(\pm d,0) 以外の有理点を持つこととが同値であることを示しました。
さて、こんな話をして、結局何が言いたいのかというと、目的は、Fermat が Diophantus「数論」の余白に書いた第 45 のコメント

三辺の長さが整数の直角三角形の面積は、平方数とはならない。

を、楕円曲線論を用いて証明することにあります。この命題は直ちに

三辺の長さが有理数の直角三角形の面積は、1 とはならない。

と言い換えることができます(検証は簡単なので省略)。したがって、この第 45 のコメントを証明するには、何度も言うように、楕円曲線
y^2=x^3-x … (*)
(0,0),(\pm 1,0) 以外の有理点を持たないことを示せば良いことになります。
そのための準備として、有理数の「高さ」という概念を定義しておきます。有理数 a が a=\frac{m}{n} と既約分数の形に表されているとき、その高さ H(a) を
H(a)=\max(|m|,|n|)
で定義します。この定義から、どんな有理数の高さも正の整数になることがすぐ分かります。例えば
H(\frac32)=3,H(-\frac58)=8,H(0)=1(0=\frac01)
です。なお、今回は使いませんが \pm\infty=\pm\frac10 と考え、H(\pm\infty)=1 と約束します。Fermat は、(*) が (0,0),(\pm 1,0) 以外の有理点 (x_0,y_0) を持てば、x 座標の高さが H(x_0) よりも真に小さい新たな有理点を構成できることを示して、結果的に矛盾を示しました。このような証明方法を「無限降下法」ということは、以前にも紹介しました。証明は 3 ステップに分けて行います。

  1. x_0>1 としてよいことを示す。
  2. x_0>1 として、(x_0-1)x_0(x_0+1)={x_0}^3-x_0={y_0}^2 から、実は x_0-1,x_0,x_0+1 が全て有理数の平方であることを示す
  3. その事実から、ある構成法で新たな有理点 (x_1,y_1) を構成し、H(x_1)<H(x_0) を示す。

ここで、「ある構成法」だけ述べておくと、以前示した
B=\{(u,v,w)\in K^3|u^2+a=v^2+b=w^2+c\}
C=\{(x,y)\in K^2|y^2=(x-a)(x-b)(x-c),y\neq 0\}
なる二つの集合の間の全単射 g と、B から
\tilde{C}=\{(x,y)\in K^2|y^2=(x-a)(x-b)(x-c)\}
への写像 h との合成 h\circ g:C\to\tilde{C} によって構成されるもので、実は h\circ g の像は、その構成法から分かる通り
\{(x,y)\in K^2|y^2=(x-a)(x-b)(x-c),(\exists p,q,r\in K)(x-a=p^2,x-b=q^2,x-c=r^2)\}
に一致します。ここで K=\mathbb{Q},a=1,b=0,c=-1 とおいたものを考えた時に (x_0,y_0) は第 2 ステップの主張から上の集合に含まれるので、h\circ g(x_1,y_1)=(x_0,y_0) となる 有理点 (x_1,y_1) が存在する、というわけです。(続く)