直角三角形の面積と楕円曲線の関係(その 3・最終回)

前回からの続きです。三つのステップのそれぞれを証明していきます。
(Step 1 の証明)
(x_0,y_0)y^2=x^3-x を満たせば、\left(-\frac{1}{x_0},\pm\frac{y_0}{{x_0}^2}\right)y^2=x^3-x を満たし、かつ H(-\frac{1}{x_0})=H(x_0) だから、x_0>0 として良い。すると
(x_0-1)x_0(x_0+1)={y_0}^2>0
だから x_0>1.
(Step 2 の証明)
x_0>1 とし x_0=\frac{m}{n},m>n>0 と既約分数表示する。もし m , n がともに奇数とすると、
{x_0}'=\frac{x_0+1}{x_0-1}=\frac{(m+n)/2}{(m-n)/2}
とおけば
\begin{align}{x_0}'^3-{x_0}'&=\frac{(x_0+1)^3(x_0-1)-(x_0+1)(x_0-1)^3}{(x_0-1)^4}\\&=\frac{4({x_0}^3-x_0)}{(x_0-1)^4}\\&=\frac{4{y_0}^2}{(x_0-1)^4}\end{align}
だから \left({x_0}',\pm\frac{2y_0}{(x_0-1)^2}\right)y^2=x^3-x有理数解であり
H({x_0}')=\frac{m+n}{2}<m=H(x_0)
となるから、初めから m , n のうち、一方が偶数でもう一方が奇数であるとして一般性を失わない。
(x_0-1)x_0(x_0+1)=\frac{mn(m+n)(m-n)}{n^4}
有理数の平方であるから、特に mn(m+n)(m-n) は平方数である。ところが m , n , m + n , m - n は互いに素*1なので、これらは全て平方数である。したがって
x_0-1=\frac{m-n}{n},x_0=\frac{m}{n},x_0+1=\frac{m+n}{n}
は全て有理数の平方である。
(Step 3 の証明)
(x_1,y_1) の取り方から
x_0=\left(\frac{(x_1-1)^2-2}{2y_1}\right)^2+1=\frac{(x_1^2+1)^2}{4({x_1}^3-x_1)}
である。x_1=\frac{r}{s} と既約分数の形に書けば
x_{0}=\frac{(r^2+s^2)^2}{4rs(r^2-s^2)}
であるが、ここで分母と分子の最大公約数は 4 以下であることが分かる。実際、分母と分子の共通素因子は 2 以外にはありえないから、分母と分子の最大公約数は 2 のべきであるが、仮に r^2+s^2 が偶数ならば、r , s はともに奇数でなければならないので、r^2+s^2 は 4 で割って 2 余る数となり、(r^2+s^2)^2 は 8 では割り切れないからである。
したがって
H(x_0)\geq\frac14(r^2+s^2)^2\geq\frac14\max(|r|,|s|)^4=\frac14 H(x_1)^4
であるが、x_1\neq 0,\pm 1 だから H(x_1)\geq 2 なので \frac14 H(x_1)^4>H(x_1) となり、題意は示された。

以上で Fermat の第 45 のコメントにおける主張は示されたのですが、副産物として

方程式 x^4+y^4=z^4自然数解を持たない

ことが、以下のように示されます。実際、自然数解を持つと仮定すると
(\frac{x^2z}{y^3})^2=(\frac{z^2}{y^2})^3-\frac{z^2}{y^2}
が成り立つので、楕円曲線 y^2=x^3-x が y = 0 以外の有理点を持たないという事実に反してしまうからです。かくして Fermat 予想のうちの一つが、楕円曲線論で証明できたことになります。Wiles の解決に至るまでの Fermat 予想への挑戦の歴史は、ここから始まったのです。

*1:m + n と m - n の共通因子は 2m = (m + n) + (m - n) と 2n = (m + n) - (m - n) を割りきらなければならないので 2 しかあり得ないが、m + n と m - n はともに奇数だから、それもあり得ない。