これまでは整数のお話でしたが、整数の代わりに適当な環 R を持ってきて、
なる「非自明」な解はあるのか ? というお話を少ししたいと思います。
行列の場合
として、
で、 の行列式が 0 でないものを「非自明な解」ということにします。すると、これは n が奇数の場合に以下のような非自明解を持ちます。
- のとき
- のとき
この例はバーネット(Barnett)とワイトカンプ(Weitkamp)によるものです。一方、 のときは
なる非自明解があります。ただし とおくとき です。この非自明解を用いると n が奇数のとき が非自明解になっていることも分かります。問題は n が 4 の倍数のときですが、n = 4 のときは
(ただし )
が非自明解です。これはドミアティ(Domiaty)によるものですが、この他に
も n = 4 に対する非自明解の例になっています。
n = 8 の時には、何とこんな非自明解があります。
多項式の場合
として
… (*)
で、 を満たす複素数を用いて
と書けるものを「自明な解」とし、そうでないものを「非自明な解」とします。すると、(*) は n が 2 以上の自然数のときは何と非自明な解を持たないことが証明できます。
実際に (*) に非自明な解があったとしましょう。そのようなものの中で、
が最小となるものを選んでおきます。もちろん でないといけないはずです。
このとき、 と は互いに素です。なぜならもしある既約多項式 が を満たすなら となるので であり、 なる新しい非自明解を得ますが
なので仮定に反します。さて (*) から
です。ただし は 1 の原始 n 乗根。
この式の左辺の因子は、どの二つも互いに素です。もし と が共通の因子 を持てば
と
が共通因子 を持つので矛盾。
従って各 j に対して
となる多項式 が存在します。
となる複素数 を用いて
とおくと
となるので、新しい非自明解 を得ます。ところがその作り方から
となるので最初の仮定に矛盾してしまいます。故に (*) は非自明解を持たないことが分かります。