LU 分解(前編)

正則行列の LU 分解(その 1)

A=(a_{ij}) を n 次正則行列とする。このとき、a_{1j} の中で 0 でないものが少なくとも一つ存在するので、A に右から置換行列 P_1 を掛けて、一般性を失うことなく a_{11}\neq 0 として良い。そこで
M_1=\left(\begin{array}1&0&0&\dots&0\\-m_{21}&1&0&\dots&0\\-m_{31}&0&1$\ddots&\ddots&\vdots\\\vdots&\vdots&\ddots&1&0\\-m_{n1}&0&\dots&0&1\end{array}\right)
とおく。ただし m_{i1}=\frac{a_{i1}}{a_{11}} である。すると
M_1AP_1=\left(\begin{array}a_{11}&*&\dots&*\\0&*&\dots&*\\\vdots&\vdots&&\vdots\\0&*&\dots&*\end{array}\right)
となるので、この行列から 1 行目と 1 列目を除いた (n - 1) 次行列に対して、帰納的に同じ手順を繰り返すと、対角成分が 1 のある下三角行列 M と置換行列 P があって
MAP=U
と出来る。ただし U は対角成分が 0 でない上三角行列。L=M^{-1} はやはり対角成分が 1 の下三角行列だから、結局
AP=LU
と下三角行列と上三角行列の積に分解できたことになる。これを正則行列LU 分解という。P を固定すれば、この分解は一意であることは簡単に証明できる。実際
AP=LU=L_1U_1
とすれば L_1^{-1}L = U_1U^{-1} であり、左辺は下三角行列、右辺は上三角行列だから、両辺は対角行列でなければならない。特に左辺は対角成分が 1 だから単位行列でなければならず、このことから U_1=U を得る。したがって L_1=L も成り立つ。

正則行列の LU 分解(その 2)

A=(a_{ij}) を n 次正則行列とする。このとき、a_{i1} の中で 0 でないものが少なくとも一つ存在するので、A に左から置換行列 P_1 を掛けて、一般性を失うことなく a_{11}\neq 0 として良い。そこで
V_1=\left(\begin{array}1&-m_{12}&-m_{13}&\dots&-m_{1n}\\0&1&0&\dots&0\\0&0&1$\ddots&\ddots&\vdots\\\vdots&\vdots&\ddots&1&0\\0&0&\dots&0&1\end{array}\right)
とおく。ただし m_{1j}=\frac{a_{1j}}{a_{11}} である。すると
P_1AV_1=\left(\begin{array}a_{11}&0&\dots&0\\*&*&\dots&*\\\vdots&\vdots&&\vdots\\*&*&\dots&*\end{array}\right)
となるので、この行列から 1 行目と 1 列目を除いた (n - 1) 次行列に対して、帰納的に同じ手順を繰り返すと、対角成分が 1 のある上三角行列 V と置換行列 P があって
PAV=L
と出来る。ただし L は対角成分が 0 でない下三角行列。U=V^{-1} はやはり対角成分が 1 の下三角行列だから、結局
PA=LU
と下三角行列と上三角行列の積に分解できたことになる。これも正則行列LU 分解という。P を固定すれば、この分解もやはり一意であることが上記と同様、簡単に証明できる。

正則行列の LDU 分解

以上の手順において、U ないし L の対角成分を対角成分とする対角行列 D を考えると、適当な置換行列 P_1,P_2 があって
AP_1=LDU
ないし
P_2 A=LDU
と出来ることが分かる。ただし L , U は各々下三角行列、上三角行列で、その対角成分は 1 である。これを正則行列LDU 分解という。これもまた P_1 ないし P_2 を固定すると一意性が示せる。