一般逆行列(その 1)

A:\mathbb{C}^n\to\mathbb{C}^mm\times n 行列 A で与えられる線型写像とする。r={\rm rank}A(\leq\min\{n,m\}) とおけば

  • W^0={\rm Im}A\mathbb{C}^m の r 次元部分空間
  • V^1={\rm Ker}A\mathbb{C}^n の (n - r) 次元部分空間

である。そこで

  • V^1 の補空間 V^0
  • W^0 の補空間 W^1

を各々一つ取って固定し、V^0,V^1,W^0,W^1 の基底も各々一組取って固定しておく。
\mathbb{C}^n の基底として、上述の V^0 の基底と V^1 の基底を合併したもの、\mathbb{C}^m の基底として W^0 の基底と W^1 の基底を合併したものを取る。\mathbb{C}^m および \mathbb{C}^n における、標準基底からこれらの基底への変換行列を S_0,T_0 とおけば
S_0 AT_0^{-1}=\left(\begin{array}A_{11} & O\\O & O\end{array}\right) (A_{11}r正則行列)
と表せる。何となれば、V^0,W^0 の各々の基底変換を引き起こす基底変換行列
S_1:\mathbb{C}^m\to\mathbb{C}^m,T_1:\mathbb{C}^n\to\mathbb{C}^n
を施して S=S_1 S_0,T=T_0^{-1}T_1^{-1} と書きなおせば
SAT=\left(\begin{array}E_r & O\\O & O\end{array}\right) … (i)
と表すことができる。

さて、線型写像 A^-:\mathbb{C}^m\to\mathbb{C}^n
\mathbf{y}=A\mathbf{x} ならば \mathbf{y}=A(A^- \mathbf{y})
を満たすものとする。これは
AA^- A=A … (ii)
が成り立つことと同値であるが、A を (i) のように変形したとき
A^- =T\left(\begin{array}E_r & D_2\\D_3 & D_4\end{array}\right)S … (iii)
(D_2r\times(m-r)D_3(n-r)\times rD_4(n-r)\times(m-r) の任意の行列)
とおけば (ii) が成り立つ。この A^- を A の一般逆行列という。

今、補空間 V^0 を取り直して S の代わりに
\left(\begin{array}E_r & -D_2\\O & E_{m-r}\end{array}\right)S
を、同じく W^1 を取り直して T の代わりに
T\left(\begin{array}E_r & O\\-D_3 & E_{n-r}\end{array}\right)
を取っても (i) の形は変わることなく
A^- =T\left(\begin{array}E_r & O\\O & D_4'\end{array}\right)S (D_4'=D_4-D_3 D_2) … (iii)'
と書きなおすことができる。したがって、一般逆行列の自由度は

  1. {\rm Im}A の補空間の取り方
  2. {\rm Ker}A の補空間の取り方
  3. 線型写像 D_4':W^1\to V^1 の取り方

の分だけ存在することになる。

逆に (ii) を満たす A^- があるとき
V^0={\rm Im}A^- A,W^1={\rm Ker}AA^-
とおけば A^- は (iii)' の形に表される。また (ii) から明らかに
(A^- A)^2 = A^- A,(AA^-)^2=AA^-
であるから、A^- A\mathbb{C}^n における V^0 への射影であり、AA^-\mathbb{C}^m における W^1 への射影となる。
{\rm rank}A^- A={\rm rank}AA^-={\rm rank}A
も明らか。

なお、n = m かつ A が正則のときに限り A^- は一意に定まり、それは明らかに A^-=A^{-1} である。