ε - δ 論法(その 9)

数列にもう少しだけお付き合いください。

Cauchy 列

定義

数列 \{a_n\} について、任意の \varepsilon>0 に対してある自然数 N が存在して
m,n\geq N\Rightarrow|a_m-a_n|<\varepsilon
を満たすとき、\{a_n\}Cauchy 列であるという。

Cauchy 列は非常に強力な概念で、例えば

  1. 収束列は Cauchy 列である
  2. Cauchy 列のある部分列が a に収束すれば、元の Cauchy 列も a に収束する

ことがわかっています。1. は練習問題として、2. を証明しましょう。

\varepsilon>0 を任意に取ります。Cauchy 列 \{a_n\} の収束部分列 \{a_{n(k)}\} を取るとき
k\geq K_1\Rightarrow|a_{n(k)}-a|<\frac{\varepsilon}{2}
が成り立つように自然数 K が取れます。また
m,n\geq N\Rightarrow|a_m-a_n|<\frac{\varepsilon}{2}
が成り立つように自然数 M を取ることができます。さらに n(k) の単調性から n(k)\geq k なので、N=\max\{K,M\} とおけば、k\geq N のとき
\begin{align}|a_k-a|&=|(a_k-a_{n(k)})+(a_{n(k)}-a)|\\&\leq|a_k-a_{n(k)}|+|a_{n(k)}-a|\\&<\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon.\end{align}

そして、Cauchy 列について最も重要な事実は、実数列について 1. の逆が成り立つことです。

定理

実数列 \{a_n\} は Cauchy 列ならば収束する。*1

この定理は証明はしませんが、実数を特徴付ける非常に重要な定理です。

*1:このような性質を完備性と言います。