部分圏の極限
が の部分圏であるとき、包含関手 の極限・余極限をそれぞれ
と表すことにします。
極限・余極限の例
最後に、いくつかの極限・余極限の例を挙げて、この話題を締めくくりたいと思います。
0 を空圏(対象も射も存在しない圏)とします。これは任意の圏 の部分圏です。
このとき、包含関手 I も、任意の の対象 x に対する も、関手としては同じ、ただ一つの自明な関手に等しくなります。従って から I への自然変換も、恒等自然変換しかありません。つまり はただ一つの元しか持ちえません。従って極限の随伴性から もまたただ一つの元しか持ちえません。x は任意でしたから、これは が終対象であることを意味します。全く同様に は始対象です。
を二つの対象 a , b と、その上の恒等射 id(a) , id(b) からなる部分圏とします。このとき、任意の の対象 x に対して から I への自然変換とは、x から a への射 と x から b への射 の組に他なりません。つまり
が成り立ちます。今 が存在するとして、
で と置いたときの右辺の恒等射に対応する左辺の射の組を とします。左辺の元 に対して、右辺の元 が一意に対応し、 が成り立つことは容易に確かめられます。これは が a と b の直積であることを意味しています。同様に は直和です。
を二つの対象 a , b と、その上の恒等射 id(a) , id(b)、及び二つの射 からなる部分圏とします。このとき、任意の の対象 x に対して から I への自然変換 t が与えられると、x から a への射 と x から b への射 について がが成り立ちます。逆に なる射 が与えられれば、 から I への自然変換が自然に定まります。従って とは、x から a への射 で、 を満たすものの全体とみなせます。さて
で と置いたときの右辺の恒等射に対応する左辺の元(に対応する x から a への射)を e とします。今、左辺の元に対応する x から a への射 h に対し、右辺の元 が一意に対応し、明らかに が成り立ちます。これは が f と g の差核であることを意味しています。 が f と g の双対差核であることは練習問題としましょう。
最後に
ここまで、随分といろいろなことを書いてきましたが、これらは圏論という枠組みの中では初歩の初歩(!)に過ぎません。これらの基礎概念を基にして様々な性質が導かれ、それは個々具体の圏によらない普遍的な性質として、様々な場面に適用されるのです。