圏論への誘い(その 14・最終回)

部分圏の極限

\mathcal{D}\mathcal{C} の部分圏であるとき、包含関手 I:\mathcal{D}\to\mathcal{C} の極限・余極限をそれぞれ
\lim_{\leftarrow\mathcal{D}}I=\lim_{\leftarrow}\mathcal{D},\lim_{\rightarrow\mathcal{D}}I=\lim_{\rightarrow}\mathcal{D}
と表すことにします。

極限・余極限の例

最後に、いくつかの極限・余極限の例を挙げて、この話題を締めくくりたいと思います。
0 を空圏(対象も射も存在しない圏)とします。これは任意の圏 \mathcal{C} の部分圏です。
このとき、包含関手 I も、任意の \mathcal{C} の対象 x に対する \Delta x も、関手としては同じ、ただ一つの自明な関手に等しくなります。従って \Delta x から I への自然変換も、恒等自然変換しかありません。つまり \hom_{\mathcal{C}^0}(\Delta x,I) はただ一つの元しか持ちえません。従って極限の随伴性から \hom_{\mathcal{C}}(x,\lim_{\leftarrow}0) もまたただ一つの元しか持ちえません。x は任意でしたから、これは \lim_{\leftarrow}0 が終対象であることを意味します。全く同様に \lim_{\rightarrow}0 は始対象です。
\mathcal{D} を二つの対象 a , b と、その上の恒等射 id(a) , id(b) からなる部分圏とします。このとき、任意の \mathcal{C} の対象 x に対して \Delta x から I への自然変換とは、x から a への射 t_a:x\to a と x から b への射 t_b:x\to b の組に他なりません。つまり
\hom_{\mathcal{C}^{\mathcal{D}}}(\Delta x,I)\simeq\hom_{\mathcal{C}}(x,a)\times\hom_{\mathcal{C}}(x,b)
が成り立ちます。今 \lim_{\leftarrow}\mathcal{D} が存在するとして、
\hom_{\mathcal{C}}(x,a)\times\hom_{\mathcal{C}}(x,b)\simeq\hom_{\mathcal{C}}(x,\lim_{\leftarrow}\mathcal{D})
x=\lim_{\leftarrow}\mathcal{D} と置いたときの右辺の恒等射に対応する左辺の射の組を \langle\pi_a,\pi_b\rangle とします。左辺の元 \langle t_a,t_b\rangle に対して、右辺の元 h:x\to\lim_{\leftarrow}\mathcal{D} が一意に対応し、t_a=\pi_a\circ h,t_b=\pi_b\circ h が成り立つことは容易に確かめられます。これは \lim_{\leftarrow}\mathcal{D} が a と b の直積であることを意味しています。同様に \lim_{\rightarrow}\mathcal{D} は直和です。
\mathcal{D} を二つの対象 a , b と、その上の恒等射 id(a) , id(b)、及び二つの射 f,g:a\to bからなる部分圏とします。このとき、任意の \mathcal{C} の対象 x に対して \Delta x から I への自然変換 t が与えられると、x から a への射 t_a:x\to a と x から b への射 t_b:x\to b について f\circ t_a=t_b=g\circ t_a がが成り立ちます。逆に f\circ h=g\circ h なる射 h:x\to a が与えられれば、\Delta x から I への自然変換が自然に定まります。従って \hom_{\mathcal{C}^{\mathcal{D}}}(\Delta x,I) とは、x から a への射 h で、f\circ h=g\circ h を満たすものの全体とみなせます。さて
\hom_{\mathcal{C}^{\mathcal{D}}}(\Delta x,I)\simeq\hom_{\mathcal{C}}(x,\lim_{\leftarrow}\mathcal{D})
x=\lim_{\leftarrow}\mathcal{D} と置いたときの右辺の恒等射に対応する左辺の元(に対応する x から a への射)を e とします。今、左辺の元に対応する x から a への射 h に対し、右辺の元 k:x\to\lim_{\leftarrow}\mathcal{D} が一意に対応し、明らかに h=e\circ k が成り立ちます。これは \lim_{\leftarrow}\mathcal{D} が f と g の差核であることを意味しています。\lim_{\rightarrow}\mathcal{D} が f と g の双対差核であることは練習問題としましょう。

最後に

ここまで、随分といろいろなことを書いてきましたが、これらは圏論という枠組みの中では初歩の初歩(!)に過ぎません。これらの基礎概念を基にして様々な性質が導かれ、それは個々具体の圏によらない普遍的な性質として、様々な場面に適用されるのです。