圏論への誘い(その 12)

{\rm Ens}

今、集合からなる集合*1 V の全ての要素を対象とし、それら集合間の全ての写像を射とする圏を考えることが出来ます。これを {\rm Ens}_V で表します。V がユニバースであるとき、{\rm Ens}_V={\rm Set} です。一般には、V を固定して考えないので単に {\rm Ens} と書きます。これはある固定された圏ではなく、用いられる状況によって変化するものと解釈してください。

双関手と hom 関手

積の圏 \mathcal{C}\times\mathcal{D} から圏 \mathcal{E} への関手のことを特に双関手と言います。例えば集合 x,y に対して \langle x,y\rangle\to x\times y を対応させることは双関手 {\rm Set}\times{\rm Set}\to{\rm Set} を与えます。
さて、圏 \mathcal{C} の対象 a,b に対して
\langle a,b\rangle\to\hom(a,b)
なる対応を与えることを考えます。b を固定するとき、射 f:a_2\to a_1 が与えられると
\hom(a_1,b)\ni h\to h\circ f\in\hom(a_2,b)
なる写像が考えられます。これは反変関手を与えます。すなわち関手
\hom(-,b):\mathcal{C}^{\rm op}\to{\rm Ens}
を与えます*2] をとっておけば良いでしょう。))。
一方 a を固定するとき、射 g:b_1\to b_2 が与えられると
\hom(a,b_1)\ni k\to g\circ k\in\hom(a,b_2)
なる写像が考えられます。これは共変関手
\hom(a,-):\mathcal{C}\to{\rm Ens}
を与えます。よって双関手
\hom:\mathcal{C}^{\rm op}\times\mathcal{C}\to{\rm Ens}
が与えられたことになります。これを特に hom 関手と言います。

随伴関手

さて、圏 \mathcal{C},\mathcal{D} と関手 F:\mathcal{D}\to\mathcal{C},U:\mathcal{C}\to\mathcal{D} があって、\mathcal{C} の対象 a と \mathcal{D} の対象 b に対して「自然な」同型
\hom_{\mathcal{C}}(Fb,a)\simeq\hom_{\mathcal{D}}(b,Ua)
が成り立つとき、F は U の左随伴関手(left-adjoint functor)であるといい、また U は F の右随伴関手(right-adjoint functor)であるといいます。ここで「自然な」の意味は
O_{a,b}:\hom_{\mathcal{C}}(Fb,a)\to\hom_{\mathcal{D}}(b,Ua)
と書くとき、射 f:a_1\to a_2,g:b_2\to b_1 に対して
\hom(g,Uf)\circ O_{a_1,b_1}=O_{a_2,b_2}\circ\hom(Fg,f)
が成り立っていることを意味します。
左随伴関手の代表例は、集合 X に対して、それによって生成される自由群 F(X) を対応させる関手 F:{\rm Set}\to{\rm Grp} です。このとき F は忘却関手 U の左随伴関手になることが確かめられます。

*1:ここで言う「集合」とは、先に定義した、拡張された意味での集合です。

*2:V としては \mathcal{C} の射の集合 A(\mathcal{C}) の冪集合 [tex:\mathcal{P}(A(\mathcal{C}