Fermat の最終定理に挑む(その 6)

以下、\mathbb{Z} の元を「有理整数」と言うことにします。

トレースとノルム

二次体 \mathbb{Q}(\sqrt{m}) は Galois 拡大です。そこで、その Galois 群 {\rm Gal}(\mathbb{Q}(\sqrt{m})/\mathbb{Q})単位元でないものを \sigma とおきます。このとき、簡単な考察により
\alpha=x+y\sqrt{m}
に対して
\bar{\alpha}=\sigma(\alpha)=x-y\sqrt{m}
となります。この \bar{\alpha}\alpha共役と言います。また
{\rm Tr}(\alpha)=\alpha+\bar{\alpha}=2x,N(\alpha)=\alpha\bar{\alpha}=x^2-my^2
を、それぞれ \alphaトレースノルムと言います。

二次体の整数

さて、\alpha=x+y\sqrt{m} が二次体 \mathbb{Q}(\sqrt{m}) の整数であるとすれば、\alpha,\bar{\alpha} は、有理整数係数の二次方程式
t^2+at+b=0 (a,b\in\mathbb{Z})
の二根である必要があります。このとき
2x=\alpha+\bar{\alpha}=-a,x^2-my^2=\alpha\bar{\alpha}=b
はともに有理整数なので
4y^2m=4x^2-4b=a^2-4b
もまた有理整数です。しかし、m が平方因子を持たない、という仮定から、このようなことは 2y が有理整数でないと起こりえません。
従って、二次体 \mathbb{Q}(\sqrt{m}) の整数は少なくとも
\alpha=\frac{p+q\sqrt{m}}{2} (p , q は有理整数)
の形をしていないといけないことになります。このとき
\alpha\bar{\alpha}=\frac{p^2-q^2m}{4}
が有理整数であることから
p^2\equiv q^2m\pmod{4} … (*)
が成り立つ必要があります。

Case 1. m\equiv 1\pmod{4} のとき

(*) により、p が奇数なら q も奇数、p が偶数ならば q も偶数。従って
\frac{p+q\sqrt{m}}{2} , p\equiv q\pmod{2}
の形のものが整数となりうる。

Case 2. m\equiv 2,3\pmod{4} のとき

q が奇数とすると (*) により矛盾が生ずるので q は偶数。従って p も偶数でなければならない。よって
x+y\sqrt{m} , x,y\in\mathbb{Z}
の形のものが整数となりうる。
逆にそれぞれの場合において、上の形をしているものは確かに二次体 \mathbb{Q}(\sqrt{m}) において \mathbb{Z} 上整であることが確かめられます。以上により二次体の整数は具体的に求められたことになります。
見てお分かりの通り、m\equiv 1\pmod{4} のときとそうでないときとでは、二次体の整数と呼ぶにふさわしい数の形が違っています。