先日話題にした Hamilton の四元数体は、複素 2 × 2 行列環の部分環として表現できます。
とおくと、これは和に関して可換で が零元です。また、積について結合法則が成り立ち、 が単位元です。さらに分配法則も成り立つので、 は環になります。
ここで、零元でない の元に対しては
が積の逆元になります。従って、 がもし(積について)可換ならば、これは通常の体ですが、残念ながらそうはなりません。
となるので、一般に積は可換にはならないのです。しかし、積が可換でない以外は通常の体と同じ性質を持っており、このような代数系を「斜体」ということは、前回もお話したとおりです。そして
は、複素数体 の体としての構造をそっくりそのまま の中に写す写像になっています。この意味で、 は の拡大になっています。
体論を勉強したことのある方なら御存知でしょうが、 は「代数閉体」と言われる代物で、 を真に含む(可換な)体は存在しません。上記のように、可換性を犠牲にすることによって、初めて拡大が可能になるのです。*1