正 n 角形の定義

数学的に見て、正 n 角形のもっとも自然な定義はこうでしょう。

n 個の辺の長さが全て等しく、n 個の内角の大きさが全て等しい n 角形を正 n 角形という。

ところで、n = 3 のとき、つまり正三角形の場合は

三つの辺の長さが全て等しい三角形を正三角形という。

と習わなかったでしょうか。このことから考えると、正 n 角形の定義は、少し強すぎるように見えます。
しかし、五角形で考えても、五つの辺の長さが等しいだけでは正五角形にはなりません。*1また、五つの内角の大きさが全て等しいだけでも駄目なこともわかるでしょう。従って、正 n 角形の定義は、一見強すぎるようで、実は自然な定義なのです。
実はここからが本題です。では、正三角形は、なぜ三つの辺が等しいだけで十分なのでしょうか ? 実は三角形は三つの辺の長さと三つの内角の大きさのうち

  1. 三つの辺の長さ
  2. 三つの辺のうち二つの辺の長さと、その間の内角の大きさ
  3. 三つの辺のうち一つの辺の長さと、その両端の内角の大きさ

のいずれかがわかってしまえば、三角形がどんな形をしているかが決まってしまうのです。*2
同じことを四角形で考えて見ましょう。例えば、四つの辺の長さが全てわかっていたら、四角形を決定することは出来るでしょうか ?
答は「No」です。実は四角形を決定するには、もう一つ、少なくともどれか一つの内角の大きさがわからないと決定できないのです。
その最もわかりやすい例がひし形と正方形です。四つの辺の長さが全て等しい四角形をひし形といいますが、ひし形も内角の大きさの違いでいろいろな形が考えられます。正方形はひし形ですが、ひし形は正方形ではないのです。ひし形が正方形であることを言うためには、後一つ、例えば内角の一つが直角であるとか、何かしらの条件をつけなければいけません。

式で書いたとき、四つの等式を用いれば正方形は定義されるはず

というのはごもっともなのですが、例えば「四つの辺の長さが等しく〜」という形にしようとすると、辺の長さに関する条件を使い切ってしまっているので、勢い、内角の具体的な大きさを決定しないと四角形が決定しません。*3
じゃあどうすればいいんだ、と言われると、返答に困るのですが、こういったことを考えるのは n = 4 くらいならばまだ良いのですが、より一般の n になると、最低いくつの等式を使えば n 角形が決定するのかを調べることは困難です。従って、正方形 = 正四角形の定義は、やはり

四つの辺の長さが等しく、四つの内角の大きさが等しい四角形を正方形という

とするのが最も自然であり、その自然な拡張として正 n 角形の定義を教えるのが一番良いような気がします。感覚は人それぞれかもしれませんが、私は

ひし形かつ長方形である四角形を正方形という

というのには、ちょっと馴染めません。*4

*1:マッチ棒でも使って実際に考えてみてください。ちょっとした頭の体操です。

*2:このことは、高校に入って三角比を習うとわかります。

*3:「四つの辺の長さが等しい」という条件は、等式三つで書けることに注意。

*4:この感覚は、研究の対象として数学を扱う人間と、教育の立場から数学を扱う人間との違いかもしれません。