ε - δ 論法(その 15・最終回)

合成関数の連続性

一般に \lim_{x\to a,x\neq a}f(x)=b, \lim_{y\to b,y\neq b}g(y)=c のとき、\lim_{x\to a}g\circ f(x)=c となるとは限りません。実際、f(x) として恒等的に 0 であるものを取り
g(y)=\left\{\begin{array}1&(y=0)\\0&(y\neq 0)\end{array}\right.
とすると、明らかに任意の a\in\mathbb{R} に対して \lim_{x\to a}f(x)=0 であり、また \lim_{y\to 0}g(y)=0 ですが、g\circ f(x) は恒等的に 1 なので
\lim_{x\to a}g\circ f(x)=1\neq 0
となってしまいます。これは g が y = 0 = f(a) で連続でないがゆえに起きる現象です。同じように f(x) が不連続な場合もやはり反例が作れます。

しかし、f(x) が x = a で連続で、g(y) が y = b = f(a) で連続ならば、合成関数 g\circ f(x) は x = a で連続であることが示せます。これを示すために、再び補題を用意します

補題 3

次の 2 条件は同値である。

  1. \lim_{x\to a}f(x) = b
  2. x_n\to a である任意の数列 \{x_n\} に対して f(x_n)\to b

(証明)
1 \Rightarrow 2 はほぼ自明。
2 \Rightarrow 1
対偶で示す。今
[tex:(\exists\varepsilon>0)(\forall\delta>0)(\exists x)*1]
とする。このとき n\in\mathbb{N} に対して
A_n=\left\{x|(|x-a|<\frac1n)\wedge(|f(x)-b|\geq\varepsilon)\right\}
から一つずつ元を選び(選択公理)、点列 \{x_n\} を作れば x_n\to a だが |f(x_n)-b|\geq\varepsilon だから f(x_n)\not\to b となって矛盾。\qed

以上の補題を用意して、次の定理を証明します。

定理 4

f(x) が x = a で連続かつ g(y) が y = b = f(a) で連続ならば、合成関数 g\circ f(x) は x = a で連続である。
(証明)
補題 3 により x_n\to a なる任意の点列 \{x_n\} に対して f(x_n)\to f(a)=b である。g(y) は y = b で連続だから、y_n\to b なる任意の点列 \{y_n\} に対して g(y_n)\to g(b)=g\circ f(a) であるから、y_n=f(x_n) とおけばよい。\qed

以上、ここまで、\varepsilon-\delta 論法の概要を述べてきました。「\varepsilon-\delta 論法」の名の由来も、既にお気づきでしょう。しかし、これは \varepsilon-\delta 論法の氷山の一角にすぎません。これを出発点として微分積分などの様々な解析的概念に、\varepsilon-\delta 論法は必ずと言っていいほど顔を出してきます。

最後に、変数や関数値が複素数の場合について補足。関数値が複素数の場合は、正負の概念がないため、f(z)\to\infty とは |f(z)|\to\infty のことと約束します。また、複素数は「複素平面」の言葉が示す通り、一点 a への近づき方が無数に存在するため、実変数のときのような右極限や左極限のような概念はありません。以上のことにさえ注意すれば、複素変数、複素数値関数に対しても全く同様の議論が展開できます。もっと言えば一般の
f:\mathbb{R}^n\supset A\to\mathbb{R}^m
に対して、ほぼ同じように議論が展開できることを補足として述べたところで、今回はお開きにいたします。

*1:|x-a|<\delta)\wedge(|f(x)-b|\geq\varepsilon