一般逆行列(その 7・最終回)

さて、A:\mathbb{C}^n\to\mathbb{C}^m における Moore-Penrose 形一般逆行列については、A の特異値分解
Q_2^*AQ_1=\left(\begin{array}\Sigma_1&O\\O&O\end{array}\right)
(ただし \Sigma_1={\rm diag}(\sigma_1,\dots,\sigma_r),\sigma_i>0
を用いれば、明らかに
A^+=Q_1\left(\begin{array}\Sigma_1^{-1}&O\\O&O\end{array}\right)Q_2^*
が Moore-Penrose 形の一般逆行列になる。このことから Moore-Penrose 形一般逆行列がほとんど一意に定まることがわかる。
Moore-Penrose 形一般逆行列の別の考え方を述べよう。
今、\mathbf{w}\in\mathbb{C}^m を固定したとき、||A\mathbf{v}-\mathbf{w}|| を最小にし、かつ ||\mathbf{v}|| を最小とするものは一意に定まる。実際、A の特異値分解を用いて問題を
||Q_2^*AQ_1\tilde{\mathbf{v}}-\tilde{\mathbf{w}}||\to\min,||\tilde{\mathbf{v}}||\to\min (ただし \tilde{\mathbf{v}}=Q_1^*\mathbf{v},\tilde{\mathbf{w}}=Q_2^*\mathbf{w})
と書きなおせば明らかに
\tilde{v}_i=\frac{\tilde{w}_i}{\sigma_i}(1\leq i\leq r),\tilde{v}_j=0(j>r)
がその解であるから、\mathbf{v}=A^+\mathbf{w} と表せることは明らかである。これを持って A^+ の定義とすることも可能である。
なお、特異値分解によるこの方法は、有理演算(と開平)だけでは出来ない操作に基づいているが、Moore-Penrose 形一般逆行列の構成そのものは、最初に紹介した通り有理演算のみによって構成可能である。

最後に、本連載の参考書籍と、同書に書かれている注意書きを引用して締めとします。

一般線形代数

一般線形代数

今まで述べてきたすべての形の一般逆行列について言えることであるが, それらの "定義" もまた "構成方法" も, 実際のデータや数値計算の過程に少しでも雑音(誤差)が入ると, 致命的な影響を受けることが多い. このような意味で, 一般逆行列の話はまったく "構造不安定" である.