Noether 的付値環が DVR となることの証明(その 4・最終回)

以上で準備が整ったので、本定理の証明に入る。
R を Noether 的付値環とする。このとき、任意のイデアル
J=a_1 R+\dots+a_n R
は、ある a_i R に一致する。したがって、R は PID である。

R の極大イデアルを I = tR とする。
一般に、Krull の共通部分定理において

の場合には I^*=\{0\} が成り立つ。本ケースはこれに当てはまるので
I^*=\bigcap_{n=1}^\infty t^n R=\{0\}
となる。したがって、任意の x\neq 0 に対して
x\in t^\nu R,x\not\in t^{\nu+1}R
となる非負整数 \nu が一意に決まる。x=0 に対してはこのような非負整数 \nu は存在しないが、便宜上 \nu=\infty とし、v:R\to\mathbb{Z}\cup\{\infty\}v(x)=\nu で定める。このとき v(xy)=v(x)+v(y),v(x+y)\geq\min\{v(x),v(y)\} が成り立つことは容易に証明できる。

K を R の商体とするとき、a/b=s/t ならば
v(a)-v(b)=v(s)-v(t)
が成り立つので、x\in K,x\neq 0 に対して x=a/b と表されるときに v(x)=v(a)-v(b) で定義すれば、v は well-defined に K 上に拡張される。このとき v は K の付値で、その値群は明らかに \mathbb{Z} であるから、R は DVR となる。

同値性

一方で、DVR は PID(principal ideal domain , 単項イデアル整域)となることが、以下のように証明できる。

R を付値環とする K の付値を、値群が \mathbb{Z} となるよう正規化し、これを v_R で表す。このとき、極大イデアル I の元 t で v_R(t)=1 となるものが存在する。今、任意の x\in I,x\neq 0 に対して v_R(x) は正整数なので、それを n とすれば v_R(x/t^n)=0 であるから a=x/t^n\in U(R) である。したがって x = at^n,a\in U(R) と書ける。特に I = tR である。

J を R の任意のイデアルとするとき
\{v_R(x)|x\in J,x\neq 0\}
は非負整数の集合であるから最小値が存在するので、それを n とする。もし n = 0 ならば J は単元を含むから J = R となる。そうでないとき、v_R(y)=n を満たす元を一つ選ぶと、任意の z\in J に対して v_R(z/y)\geq 0 であるから、J = yR であるが、上記事実により y=bt^n,b\in U(R) と表せるから特に J=t^n R である。したがって R は PID で、特にそのイデアルt^n R = I^n の形のものに限る。

以上により、付値環においては

  1. DVR である
  2. PID である
  3. Noether である

の 3 条件は全て同値である。

最後に

最後に、本連載の執筆のきっかけとなる質問を DS 数学 BBS・2 に投稿してくださったとくなみきらさん、Artin-Rees の補題の証明でアドバイスを下さったふつうさんに、この場を借りて御礼を申し上げます。

参考文献を紹介して、本連載の締めとします。

復刊 可換環論

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代数概論 (数学選書)

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