公理的集合論における自然数の存在(その 11)

1 から始まる数学的帰納法

これまで用いてきた数学的帰納法は 0 から始まるものでした。しかし、数学的帰納法は、必ず 0 から始まるとは限りません。むしろ、高校で習った(人もいる)ように、1 から始まる場合の方が多かったりします。そこで、そのような場合にも数学的帰納法が使えることを示します。
P(n)\equiv n\geq 1\to\exists m(m\in\omega\wedge n=m^+)
を示します。まず、0\geq 1 は成り立たないので、P(0) は常に成り立ちます。また、n^+=n+1\geq 1 であり、m=n とすれば m^+=n^+ となることから P(n^+) が常に成り立つので、P(n)\to P(n^+) も成り立ちます。故に P(n) は全ての自然数 n\in\omega について成り立ちます。このことから、写像 \varphi(n)=n^+\omega から \mathbb{N}=\omega\setminus\{0\} への全単射になることがわかります。
今、n\in\mathbb{N} を変数とする命題 P_1(n) が与えられたとき、m^+=n となる m\in\omega を用いて、新たな命題を
P_2(m)\equiv P_1(m^+)
とおくと、P_2(m) に対する(従来の)数学的帰納法
[P_2(0)\wedge\forall m\in\omega(P_2(m)\to P_2(m+1))]\to\forall m\in\omega P_2(m)
を書き換えて、新たに
[P_1(1)\wedge\forall n\in\mathbb{N}(P_1(n)\to P_1(n+1))]\to\forall n\in\mathbb{N}P_1(n)
という、別の形の数学的帰納法を得ることが出来ます。

積に関する性質(続き)

(6) a>b,n\geq 1\to an>bn
n=1 のときは (2) により明らかに成り立ちます。a>b\to an>bn が成り立てば、a>b のとき、和に関する性質の (5) により
a(n+1)=a+an>b+bn=b(n+1)
となります。よって全ての n\geq 1 に対して命題が成り立ちます。
この (6) と交換法則 (5) を合わせて考えると
n\geq 1,na=nb\to a=b
が成り立ちます。これは、n\geq 1 のときは \mu_n:\omega\to\omega単射になることを意味しています。
以上により、自然数の積に関する性質は、完全に再現されました。