公理的集合論における自然数の存在(その 9)

和に関する性質

前回定義した自然数の和に関する性質を見ていきます。
(1) a+0=0+a=a
a+0=\alpha_a(0)=a なので、0+a=a となることを数学的帰納法で示します。まず 0+0=\alpha_0(0)=0 です。次に 0+n=n とすると
\begin{align}0+n^+&=\alpha_0(n^+)\\&={\alpha_0(n)}^+\\&=n^+\end{align}
となって 0+n^+=n^+ が成り立つので、数学的帰納法により 0+a=a となります。これは、\alpha_0:\omega\to\omega が恒等写像であることを意味しています。
(2) a>b\to a+n>b+n
n=0 のときは (1) によって明らかです。
a+n^+=\alpha_a(n^+)={\alpha_a(n)}^+=(a+n)^+、同様に b+n^+=(b+n)^+ ですから a>b\to a+n>b+n が成り立てば a>b\to a+n^+>b+n^+ が成り立つことがわかります*1
(3) (a+b)+c=a+(b+c) (結合法則)
\alpha_a\circ\alpha_b=\alpha_{a+b} を示します。実際
\alpha_a\circ\alpha_b(0)=\alpha_a(b)=a+b=\alpha_{a+b}(0)
であり、\alpha_a\circ\alpha_b(n)=\alpha_{a+b}(n) とすると
\begin{align}\alpha_a\circ\alpha_b(n^+)&=\alpha_a({\alpha_b(n)}^+)\\&={\alpha_a(\alpha_b(n))}^+\\&={\alpha_a\circ\alpha_b(n)}^+\\&={\alpha_{a+b}(n)}^+\\&=\alpha_{a+b}(n^+)\end{align}
なので数学的帰納法により \alpha_a\circ\alpha_b=\alpha_{a+b} です。
よって
\begin{align}(a+b)+c&=\alpha_{a+b}(c)\\&=\alpha_{a+b}\circ\alpha_c(0)\\&=(\alpha_a\circ\alpha_b)\circ\alpha_c(0)\\&=\alpha_a\circ(\alpha_b\circ\alpha_c)(0)\\&=\alpha_a\circ\alpha_{b+c}(0)\\&=\alpha_a(b+c)\\&=a+(b+c)\end{align}
となります*2
(4) a+b=b+a (交換法則)
a+0=0+a(=a) は既に示しました。数学的帰納法の仮定により a+n=n+a が成り立つとすると、\alpha_1(n)=n^+*3が成り立つことから
\begin{align}a+n^+&=(a+n)^+\\&=\alpha_1(a+n)\\&=1+(a+n)\\&=1+(n+a)\\&=(1+n)+a\\&={n^+}+a\end{align}
となるので、a+b=b+a が示されます。特に
n^+=1+n=n+1
です。また、(2) と (4) を合わせて考えると
n+a=n+b\to a=b が成り立ちます。これは \alpha_n:\omega\to\omega単射であることを示しています。
(5) a\geq b,c\geq d\to a+c\geq b+d
これは (2) と (4) を用いて
a+c\geq b+c=c+b\geq d+b=b+d
として示せます。結論の式で等号が成り立つのは a=c,b=d の場合に限ることは、(2) から明らかです。
\omega に演算をこめて考えるとき、これを \bar{\mathbb{N}} と書くことがありますが、今示したことは、代数系 (\bar{\mathbb{N}},+) が、0 を単位元とする可換な単位半群であることを意味しています。実際、我々は、自然数とはそのようなものである、という認識があったはずですから、これによって、自然数の和は完全に再現されたことになります。

数学的帰納法を書き換える

改めて、数学的帰納法とは
[P(0)\wedge\forall n\in\omega(P(n)\to P(n^+))]\to\forall n\in\omega P(n)
というものでした。今、n^+=n+1 がわかったので、これを書き換えると
[P(0)\wedge\forall n\in\omega(P(n)\to P(n+1))]\to\forall n\in\omega P(n)
となります。これは我々に馴染みの深い形です。高校のときに習った人もいるでしょう。Peano の公理が決して天下りなものでないことがわかると思います。

*1:x>y ならば x\geq y^+ により x^+>x\geq y^+、すなわち x^+>y^+ が成り立つことに注意。

*2:実際にはここまで細かく砕いて証明しなくても良いのですが、対応の合成に関する結合法則を用いる練習 ? としてやってみました。

*3:これを示すのは練習問題にしましょう。