集合論の公理系(その 10)

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。さて、話題の方は昨年からの続きです。

置換公理図式

置換公理図式
\varphi(x,y)\mathcal{L} の論理式ならば、次の形の論理式は公理である。

\forall x\forall y\forall z[\varphi(x,y)\wedge\varphi(x,z)\to y=z]\\\to\forall u\exists v\forall y[y\in v\leftrightarrow\exists x\in u\varphi(x,y)]

ただし、\varphi(x,y) は z , v を自由変数として含まないものとします。その他の自由変数は含んでも構いませんが、そのときは上の論理式を全称扱い*1します。
ここでは、この公理が主張することが何であるかについては置いておいて、これより弱い形の公理を、この公理から導くことにします。

分出公理図式

分出公理図式
\psi(x) を v を自由変数として含まない論理式とするとき、次の論理式は公理である。

\forall u\exists v\forall x(x\in v\leftrightarrow x\in u\wedge\psi(x))

これを置換公理図式から導くためには
\varphi(x,y)\equiv\psi(x)\wedge x=y
とおくとうまく行きます。実際、置換公理図式の前提部分が等号公理によって成り立つので
\forall u\exist v\forall y[y\in v\leftrightarrow\exists x\in u(\psi(x)\wedge x=y)]
が成り立ちますが
\exists x\in u(\psi(x)\wedge x=y\leftrightarrow y\in u\wedge\psi(y)
となることから
\forall u\exist v\forall y(y\in v\leftrightarrow y\in u\wedge\psi(y))
となって示されます。従って、置換公理図式を認めることにより、我々はこの分出公理図式を自由に用いることが出来ます。

ラッセルの逆理

分出公理図式において、u に関する部分を削除することは出来ません。すなわち
\exists v\forall x(x\in v\leftrightarrow \psi(x))
なる形の論理式は認められません。なぜならば、\psi(x)\equiv x\not\in x とおくと
\exists v\forall x(x\in v\leftrightarrow x\not\in x)
となりますが、このとき特に
v\in v\leftrightarrow v\not\in v
という矛盾が生じてしまいます。これが有名なラッセル(Russell)の逆理です。このようなことを避けるため、分出公理図式では、\psi(x) を満たすような全ての x を一まとめにするのではなく、x をある集合 u に属するものに制限することで矛盾を回避しているのです。

置換公理図式の主張

置換公理図式の前提式
\forall x\forall y\forall z[\varphi(x,y)\wedge\varphi(x,z)\to y=z]
は「与えられた x に対して、\varphi(x,y) を満たす y は、存在すれば一意に定まる」ことを主張していますから、このことから u の部分集合を定義域として持つ「関数」*2F(x) (x\in u) が定まります。すると結論の方は
\forall u\exists v\forall y[y\in v\leftrightarrow\exists x\in u(y=F(x))]
と書けます。つまり、与えられた u に対して v とは「x が集合 u の要素を動くときの、F(x) たちの集合」です。従って置換公理図式は「集合 u と『関数』F が与えられたとき、u の F による像は集合である」という具合のことを主張していることがわかります。

*1:自由変数を全称作用素で閉じること。具体的には d:id:redcat_math:20061124 を参照。

*2:我々はまだ関数の概念を定義していないので、ここではカギ括弧をつけています。