圏論への誘い(その 10)

いよいよ二つの圏を結びつけるもの・関手(functor)を定義します。

共変関手・反変関手

\mathcal{C},\mathcal{D} に対して、a\in O(\mathcal{C}) に対して F(a)\in O(\mathcal{D}) を、また、f:a\to b に対して F(f):F(a)\to F(b) を対応させるもので

  • F({\rm id}(a))={\rm id}(F(a))
  • F(g\circ f)=F(g)\circ F(f)

を満たすものを \mathcal{C} から \mathcal{D} への共変関手(covariant functor)と言います。また、二つ目の条件を

  • F(g\circ f)=F(f)\circ F(g)

に変えたものを満たしているとき、\mathcal{C} から \mathcal{D} への反変関手(contravariant functor)と言います。
共変関手 F:\mathcal{C}^{\rm op}\to\mathcal{D} があるとしましょう。このとき、元の圏 \mathcal{C} において f:a\to b,g:b\to c であるとすると、双対圏では f^{\rm op}:b\to a,g^{\rm op}:c\to b ですから、合成 f^{\rm op}\circ g^{\rm op} が定義でき、関手の性質により
F(f^{\rm op}\circ g^{\rm op})=F(f^{\rm op})\circ F(g^{\rm op})
が成り立ちます。元の圏に立ち返れば、これは
\bar{F}(g\circ f)=\bar{F}(f)\circ\bar{F}(g)
なる反変関手が与えられたことと同じです。従って \mathcal{C} から \mathcal{D} への反変関手は、自然に \mathcal{C}^{\rm op} から \mathcal{D} への共変関手とみなすことが出来ます。

部分圏と充満部分圏

(共変)関手 F:\mathcal{C}\to\mathcal{D} に対し、F が導く写像
\hom_{\mathcal{C}}(a,b)\to\hom_{\mathcal{D}}(F(a),F(b))
単射であるとき、この関手は忠実であると言い、全射であるときは充満であると言います。
さて、圏 \mathcal{C} に対して

  • O(\mathcal{C}')\subset O(\mathcal{C})
  • \hom_{\mathcal{C}'}(a,b)\subset\hom_{\mathcal{C}}(a,b)
  • {\rm comp}_{\mathcal{C}'}={\rm comp}_{\mathcal{C}} (厳密には制限)

であるとき、\mathcal{C}'\mathcal{C}部分圏と言います。このとき自然な共変関手である包含関手 \mathcal{C}'\to\mathcal{C} が定義でき、これは常に忠実ですが、特にこれが充満であるとき、\mathcal{C}'充満部分圏と言います。つまり充満部分圏とは、部分圏であって
\hom_{\mathcal{C}'}(a,b)=\hom_{\mathcal{C}}(a,b)
が成り立つ圏のことです。充満部分圏の代表例は、{\rm Grp} に対する {\rm Ab} などがあります。