圏論への誘い(その 7)

核と余核

前回、差核と双対差核を定義しました。ところで、零対象が存在する圏においては、任意の二つの対象間に零射を定義することができました。これを用いて、射 f:a\to b に対して、{\rm Ker}(f):={\rm Ker}(f,0)核(kernel){\rm Coker}(f):={\rm Coker}(f,0)余核(cokernel)と言います。
ところで、圏 {\rm Grp} には零対象が存在したことを思い出してください。そうすると、f:G\to H に対して、核 {\rm Ker}(f) とは
{\rm Ker}(f)=\{x\in G|f(x)=e_H\}*1
のことです。これは圏 {\rm Grp} においては必ず存在し、我々が良く知っている \ker(f) の定義に他なりません。
{\rm Grp} においては、余核は以下のように定義すると圏論の意味での余核になります。
f:G\to H に対して、H の部分群 f(G) を含む、最小の(H の)正規部分群を N とし、H\stackrel{\pi}{\to}H/N を自然な射影とします。このとき
\ker(\pi)=N\supset f(G)
なので \pi\circ f=0 です。ただし 0 は零射で、0(x) は任意の x\in G について単位元です。また g_1,g_2:H/N\to G'g_1\circ\pi=g_2\circ\pi を満たすとすると
g_1(yN)=g_2(yN)\quad(\forall y\in H)
ですから g_1=g_2 となり、\pi全射です。
H\stackrel{h}{\to}Kh\circ f=0 なるものが存在したとすると \ker(h) は f(G) を部分群として含み、かつ H の正規部分群なので、N の最小性より \ker(h)\supset N が成り立ちます。よって H/N\stackrel{k}{\to}Kk(yN)=h(y) で定義すると
\begin{array}{ccl}yN=y'N&\Leftrightarrow&y^{-1}y'\in N\\&\Rightarrow&h(y^{-1}y')=1_K\\&\Leftrightarrow&h(y)=h(y')\end{array}
なので k は well-defined となり、h=k\pi が成り立ちます。先に見たように \pi全射なので、このような性質を満たす は一意的です。従って H\stackrel{\pi}{\to}H/N は f の余核です。
この定義は、我々が良く知る余核の定義とは必ずしも一致しませんが、可換群と群準同型の圏 {\rm Ab} においては、任意の部分群は正規部分群なので、我々が良く知っている余核の定義に一致します。

*1:これは G の部分群になるので、射は G への埋め込みで定義します。