Fermat の最終定理に挑む(その 8)

単数と同伴数

さて、一般に、可換環 R と、その元 a に対して、ab = 1 となる b\in R が存在するとき、a を R の単数と言い、単数の全体を U(R) で表します。
また、a,b\in R に対して a=\varepsilon b となる単数 \varepsilon があるとき、a と b は互いに同伴数であると言います。

\mathbb{Z}[\omega] の単数

二次体の整数環においては、\alpha が単数であることは N(\alpha)=\pm 1 と同値、特に、虚二次体(m<0)の整数環においては N(\alpha)=|\alpha|^2\geq 0 なので N(\alpha)=1 と同値です。そこで、実際に \mathbb{Z}[\omega] の単数を求めてみましょう。
\begin{align}N(a+b\omega)&=(a+b\omega)(a+b\bar{\omega})\\&=a^2+ab(\omega+\bar{\omega})+b^2\omega\bar{\omega}&=a^2-ab+b^2\end{align}
なので、
N(a+b\omega)=1\Leftrightarrow a^2-ab+b^2=1
です。この式を少しいじると
(2a-b)^2+3b^2=4
が出てきますので、このことから b=0 または b=\pm 1 のいずれかしかありえません。
b=0 のときは a^2=1 から a=\pm 1 が出てきます。また b=\pm 1 のときは a(a\mp 1)=0 から、a=0 または a=\pm 1 が出てきますので、このことから
\pm\omega,\pm(1+\omega)=\mp\omega^2
が単数であることが分かります。従って
U(\mathbb{Z}[\omega])=\{\pm 1,\pm\omega,\pm\omega^2\}
となり、これは 1 の 6 乗根の全体になります。

\mathbb{Z}[\omega]素数

さて、\pi\in\mathbb{Z}[\omega] が「素数」であるならば、ノルム(と素因数分解の一意性)を考えれば分かるとおり、それはある有理素数の約数でなければならず、N(\pi)=p または N(\pi)=p^2 (p は有理素数)のいずれかです。
もし N(\pi)=p^2 ならば \pi\bar{\pi}=p^2 となるので、先に述べた素因数分解の一意性から \pi は p と同伴な数になります。従って、この場合は有理素数 p がそのまま素数です。
では N(\pi)=p の場合はどうでしょう。このとき \pi=x-y\omega とおけば
x^2+xy+y^2=p
を得ますが、特に p = 3 の場合が重要です。
x^2+x+1=(x-\omega)(x-\bar{\omega})
において x = 1 とおくと
3=(1-\omega)(1-\bar{\omega})
を得るので、1-\omega は一つの素数です。ところで
1-\bar{\omega}=1-\omega^2=(1+\omega)(1-\omega)=-\omega^2(1-\omega)
なので
3=-\omega^2(1-\omega)^2
となり、3 は (1-\omega)^2 と同伴数になります。ここでは 1-\omega は特に重要になるので、これを \lambda と書くことにします。
今回の話題に関しては、この \lambda が最も重要なので、その他の場合については「初等整数論講義 第2版」に譲ることにしますが、結論を述べると

  • p=3 のとき、\lambda=1-\omega素数で、3 は \lambda^2 と同伴。
  • p\equiv 1\pmod{3} のとき、p は互いに同伴でない二つの素数の積に分解される(例 : 7=(3+\omega)(2-\omega))。
  • p\equiv 2\pmod{3} のとき、p は \mathbb{Z}[\omega] においても素数である。

が成り立ちます。
\lambda=1-\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}=\frac{3-\sqrt{-3}}{2}=\sqrt{-3}\frac{-1-\sqrt{-3}}{2}=\bar{\omega}\sqrt{-3}
なので、\lambda\sqrt{-3} と同伴であることに注意しましょう。