「理想数」から「イデアル」へ

\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]=\{a+b\sqrt{-5}\middle|a,b\in\mathbb{Z}\}
という環の中では
6=2\cdot 3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
という、二通りの素元分解が出来ます。従って、\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]は、環論で言うところの「一意分解環」ではありません。そこで、
2={R_1}^2,3=R_2 R_3,1+\sqrt{-5}=R_1 R_2,1-\sqrt{-5}=R_1 R_3
となるような「理想の」数があれば、
6={R_1}^2 R_2 R_3
と分解できるのではないか、と考えられていました。これを本当に実現してしまったのが、「イデアル(ideal)」という概念でした。イデアルの言葉を用いると
(2)=(2,1+\sqrt{-5})^2,(3)=(3,1+\sqrt{-5})(3,1-\sqrt{-5}),\\(1\pm\sqrt{-5})=(2,1+\sqrt{-5})(3,1\pm\sqrt{-5})
と分解できるため、
(6)=(2,1+\sqrt{-5})^2(3,1+\sqrt{-5})(3,1-\sqrt{-5})
と分解できます。しかも、分解後のそれぞれのイデアルは「素イデアル」と言われるものになっています。
よく、「理想と現実のギャップ」などと言いますが、そのギャップを埋めてしまえるのが数学の素晴らしさかもしれません。