Hom の左完全性の逆について(その 1)

加群の重要な定理の一つに Hom の左完全性と言われるものがありますが、私は今まで、その逆が成り立つことを知りませんでした。先日、DS 数学 BBS・2 へのとくなみきらさんからの質問によってこの事実を知り、また、その証明が

Atiyah‐MacDonald 可換代数入門

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に載っていることを、mixi 数学コミュニティの参加者であるみっきゅんさんから教えていただきました。今回は、同書の方法に従って Hom の左完全性とその逆が成り立つことの証明を紹介したいと思います。
なお、DVR のときにもお世話になったふつうさんによれば、Universal coefficient theorem の一環として証明する方法もあるようですが、これについては私自身がまだよくわかっていないので、わかり次第記事にまとめたいと思います。
まずは本題に先立って、以上の三名の方にこの場を借りて御礼を申し上げます。

Hom の左完全性とその逆

以下、R は単位元をもつ環(可換でなくても良い)とします。
左 R - 加群 M , N に対して、M から N への R - 準同型写像の全体 {\rm Hom}_R(M,N)加群(R - 加群とは限らない)の構造を持ちます。
また、R - 準同型 f:M'\to M および g:N\to N' が与えられたとき、準同型
f^*:{\rm Hom}_R(M,N)\to{\rm Hom}_R(M',N),g_*:{\rm Hom}_R(M,N)\to{\rm Hom}_R(M,N')
がそれぞれ
f^*(h)=h\circ f,g_*(h)=g\circ h
によって定義されます。

定理 1

左 R - 加群 N , N ' , N '' と準同型
u:N'\to N,v:N\to N''
が与えられたとき、
0\to N'\stackrel{u}{\to}N\stackrel{v}{\to}N''
が完全となるための必要十分条件は、任意の左 R - 加群 M に対して
0\to{\rm Hom}_R(M,N')\stackrel{u_*}{\to}{\rm Hom}_R(M,N)\stackrel{v_*}{\to}{\rm Hom}_R(M,N'')
が完全となることである。

(証明)
必要性について
(i) u_*単射であること
u_*(h')=0(h'\in{\rm Hom}_R(M,N')) とすると任意の m\in M に対して u(h'(m))=0 であるが、u単射である故 h'(m)=0(\forall m\in M) となり h'=0 を得る。したがって {\rm Ker}(u_*)=0 だから u_*単射
(ii) {\rm Im}(u_*)\subset{\rm Ker}(v_*) であること
v\circ u=0v_*\circ u_*=(v\circ u)_*=0
(iii) {\rm Im}(u_*)\supset{\rm Ker}(v_*) であること
v_*(h)=0(h\in{\rm Hom}_R(M,N)) とすると任意の m\in M に対して v(h(m))=0 であるが、{\rm Im}(u)\supset{\rm Ker}(v) により、u(n')=h(m) を満たす n'\in N' が存在し、u単射であるからこのような n' はただ一つである。したがって、各 m\in M に対してこのような n'\in N' を対応させる写像h' とおくと h'\in{\rm Hom}_R(M,N') であり、u(h'(m))=h(m)(\forall m\in M)、すなわち u_*(h')=h であるから h\in{\rm Im}(u_*)

十分性について
自然な同型 {\rm Hom}_R(R,N)\stackrel{\sim}{\to}N を考えれば明らか。