圏論への誘い(その 1)

いよいよ圏論の基礎についてです。今回は、その下準備的な話をしたいと思います。

小さな集合とクラス

私たちが普段数学で扱う「集合」とは、Zermelo-Fraenkel 公理系によってその性質が定められているものを言います。これを区別して「小さな集合」と呼ぶことにします。この公理系によるならば、「全ての小さな集合の集まり」は小さな集合たり得ません。
しかし、圏論においては、こういった、集合ではないものも扱わなければいけないため、さらに拡張された概念を用意しなければいけません。それがクラスです。クラスは以下のように定義されます。
\varphi(x,x_1,\dots,x_n) を、x,x_1,\dots,x_n 以外に自由変数を持たない(Zermelo-Fraenkel 公理系の)論理式とし、a_1,\dots,a_n を(任意特定の)集合とします。このとき
\{x|\varphi(x,a_1,\dots,a_n)\}
を、\varphi によって a_1,\dots,a_n から定義されたクラスと言います。また、集合 a について \varphi(a,a_1,\dots,a_n) が真であるとき
a\in\{x|\varphi(x,a_1,\dots,a_n)\}
と表記します。最も普遍的なクラス
U=\{x|x=x\}
です。これは全ての集合からなるクラスユニバースと呼ばれます。
上記のクラスの定義によれば、小さな集合もまたクラスです。そこで区別をするために、クラスであって小さな集合でないものを固有クラスと言います。ユニバースはもちろん固有クラスです。
クラスを公理的に扱う方法としては、Gödel-Bernays の公理系を用いる方法が有名です。

より拡張された意味での「集合」

しかし、これだけ広い概念を導入してもなお、圏論を勧めていく上では不十分です。このままでは「全ての圏からなる圏」のようなものの扱いに困ってしまいます。そのためには、(固有)クラスを要素として含むような「ものの集まり」を考えざるを得ません。
圏論では、そういったものも含めて「集合」と呼ぶ場合がほとんどです。以後、単に「集合」というときには、小さな集合やクラスを含む、より大きな概念としての「集合」を指すものとします。

誤解を招かないための追記

さて、上記の流儀に従うならば、\{U\} もまた「集合」です。しかも、U というただ一つだけの「要素」を含む「集合」です。直感的には非常に小さいものです。しかし、これはもはや小さな集合ではありません。ユニバースには x\in u\in U ならば x\in U という性質がありますから、もし \{U\} が小さな集合ならば U\in\{U\}\in U、すなわち U\in U となって、いわゆる「正則性公理」に矛盾するからです。
この例から分かるとおり、小さな集合とは、ユニバースの要素であることを意味するものであり、基数(要素の個数のようなものです)が小さいことを要求しているのではないことに注意する必要があります。