オブジェクトなき戦い

物理で扱うのはオブジェクトだが、数学ではオブジェクトという概念はない

その際たるものが公理的集合論ではないでしょうか。公理的集合論では、「集合」とは公理に定められた性質を持つもの、というだけの無定義術語であり、実際に「集合」がその辺に転がっているわけではありません。
幾何学でも然りで、高次元の多様体になると、もうそれは目に見える形で表せるものではありません。所詮、多様体とはある一定の性質を満たす位相空間でしかなく、位相空間とはある一定の性質を持つ集合でしかなく、その「集合」が目に見えない以上、それはオブジェクトとして存在することはありません。
そういった目には見えないものを研究対象とするために、いろいろな記号を使って数学は展開されていくわけで、現代数学レクチャーズ(培風館)の監修にあたった赤攝也先生もこのことを"数学語学である"といわれる所以であると表現しています。
数学の研究とはまさに「オブジェクトなき戦い」なのかも知れません。