ヘルダーの不等式

1\leq p< +\infty、また \Omega\mathbb{R}^n の領域*1とします。今、\Omega 上の複素数値関数*2f:\Omega\to\mathbb{C} で、\int_\Omega|f(x)|^p dx が有限となるようなものの全体を \mathcal{L}^p(\Omega) と表すことにします。
f,g\in\mathcal{L}^p(\Omega)\Omega 上のほとんどいたるところで一致*3するとき、同じことですが f-g がほとんどいたるところ 0 となるとき f\sim g と定義します。これは同値関係になるので、この同値関係による商集合 \mathcal{L}^p(\Omega)/\simL^p(\Omega) と表します。この L^p(\Omega)
||f||_p=\left(\int_\Omega|f(x)|^p dx\right)^{1/p}
をノルムとするバナッハ(Banach)空間になります。ここで、次の定理が有名です。

定理(Hölder's inequality)
\frac1p+\frac1q=1 とする。f\in L^p(\Omega),g\in L^q(\Omega) ならば fg\in L^1(\Omega) かつ \left|\int_\Omega f(x)g(x)dx\right|\leq||f||_p||g||_q が成り立つ。

この不等式は、単なる値の評価以上の意味を持っています。
今、p , q が上の定理の条件を満たしているとき、g\in L^q(\Omega) を一つ固定すると
L^p(\Omega)\ni f(x)\to\int_\Omega f(x)g(x) dx\in\mathbb{C}
なる線型写像が定まります。これによって、L^q(\Omega) から L^p(\Omega)^*=\hom(L^p(\Omega),\mathbb{C}) への線型写像が定まり、なおかつ単射であることがわかります。その意味で、L^q(\Omega)\subset L^p(\Omega)^* とみなせるのですが、実はこの包含関係、ぴったり一致します。つまり、L^q(\Omega)=L^p(\Omega)^* なのです。
このように、ある関数空間の双対空間が、また具体的な関数空間とみなせるというのは、極めて珍しいことです。

*1:連結開集合のことです。

*2:別に実数値関数でも良いのですが、Fourier 変換などを考えるのに都合が良いので複素数値にしておく方が便利なのです。

*3:「ほとんどいたるところ」とは、そうでないところの測度が 0 という意味です。