ポアンカレ予想を困難にさせていたもの

ポアンカレ予想(Poincaré conjecture)とは、位相幾何学の用語を用いると「単連結な 3 次元多様体は 3 次元球面に同相である」というものです。基本的な用語の定義を知っていれば、この予想の言おうとしていることはわかるはずです。
ところが、その証明には多くの困難が付きまといました。何故かと言うと、「単連結な 3 次元多様体は 3 次元球面とホモトピー同値である」という事実があったからです。
実際、3 次元多様体 M が単連結ならば \pi_1(M)=0 が成り立ちます。従って H_1(M;\mathbb{Z})=0 です。従って Poincaré 双対性により H^2(M;\mathbb{Z})=0、さらに普遍係数定理で H_2(M;\mathbb{Z})=0 となります。さらに単連結なので Hurewicz の同型定理により
\pi_2(M)\stackrel{\sim}{=}H_2(M;\mathbb{Z})=0
となります。2 次のホモトピー群が 0 なのでもう一度 Hurewicz の同型定理により
\pi_3(M)\stackrel{\sim}{=}H_3(M;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}
となります。ここからは詳細は省略しますが、この事実によって S^3 から M への連続写像 f で、f がホモトピー群の同型を導くようなものが実際に作れます。従って Whitehead の定理によって S^3 と M はホモトピー同値になります。
このように、単連結という条件だけで M のホモトピー型が決まってしまうため、ポアンカレ予想は「極めて幾何学的である」とされていました。
現在、ポアンカレ予想は検証の段階に入っています。将来、位相幾何学の参考書にポアンカレ予想の証明が掲載される日が来るかもしれませんね。