高校数学のいい加減さ

\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}=1
というのは、高校数学を学び終えた人なら誰でも知っているものです。この証明は、高校数学では以下のようにやるのが一般的です。x > 0 のとき
\sin x<x<\tan x
の逆数を取って
\frac{1}{\tan x}<\frac{1}{x}<\frac{1}{\sin x},
この各辺に\sin xを掛けると
\cos x<\frac{\sin x}{x}<1
となるので、x → + 0 とすれば\frac{\sin x}{x}\to 1というわけですが、ここで一つ問題が生じます。
この式に現れる x は言うまでもなく「弧長」です。ところが、弧長は解析的には積分を用いて定義します。そして、最初に紹介した極限
\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}=1
は、三角関数微積分において重要な役割を果たします。弧長を積分で定義しながら、その積分を求めるのに(遠回しながら)弧長を用いるのは、循環論法以外の何物でもありません。これを避けるため、純粋な解析学の分野においては、三角関数を無限級数で定義するのが一般的です。詳細は

杉浦光夫「解析入門 ?(基礎数学2)」(東大出版会)

に書かれています。興味のある方は一読をお勧めします。