エルデシュは天書の夢を見たか

天書の証明

天書の証明

原題は "Proofs for THE BOOK"。「天書」は英語では "The Book" と表現するそうです。以下は同書の訳者まえがきより引用。

「天書」は英語では The Book であり, ヨーロッパの慣習の中ではキリスト教の聖書を指すことが多いが, 本来は「唯一の書」という意味である. 唯一の書に記録する価値があるものと言えば, 美と真実しかない. そのうちの 1 巻「真実の書」が天書である. いかにも壮大な物言いではあるが, 本書の本当の著者であるポール・エルデシュはそう思っていた. そうある筈だと思っていた.

エルデシュ(Paul Erdös)によれば、数学の美しい定理には美しい証明があり、その証明がかかれている「天書」があるはずだ、というのです。そして

神を信じる必要はないが, 数学者として, 天書は信じるべきだ

と言っていたそうです。そのエルデシュがアイグナー(Martin Aigner)とツィーグラー(Günter M. Ziegler)の提案によって書き始めたのが "Proofs for THE BOOK" でした。1998 年の 3 月に、彼の 85 歳の誕生日を祝って出版されることになっていましたが、彼自身は 1996 年 9 月に 83 歳の生涯を閉じ、自らが書き上げた「天書」(の近似)を見ることはありませんでした。
アイグナーとツィーグラーがエルデシュの遺志を継いで書き上げたこの本は、果たしてエルデシュが夢見た「天書」の近似になっているのでしょうか ?
余談ですが、エルデシュ

G.H.ハーディーの, 醜い数学に恒久的な場などない, という断定

をしていたそうです。このハーディー(Godfrey Harold Hardy)は、かのラマヌジャン(Srinivasa Aiyangar Ramanujan)の相棒として知られるところのハーディーです。
ハーディーに対しては、あまり良い評価をしている人を見たことがありません。彼自身の数学の能力はともかくとして、「ラマヌジャンの才能を十二分に発揮させられなかった」という点においては、彼は無能であった、というのが、大筋の見方のようです。